【ヒプマイ】 シークレット・バース 【男主】

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「お話があるんです」



電話越しに神妙に言った声に
私は、わかった。としか返すことができなかった

言いたいことは、私だってある

余計な一言に思えて口を噤んだ
仕事終わり
家で彼を待つ


一分、一秒ごとに
まるで世界が終わるように思えて


閉じたカーテン
読みかけの本
彼用のマグカップは棚に仕舞ったまま


チャイムが鳴る
扉を開ける

赤紫色の瞳
絹のような黒髪
少し困ったようにはの字を浮かべる眉
弧を描く薄桃色の唇



「ああ、いらっしゃい」



そう言って笑う私の心中は、まるで穏やかでない

君はどうだい
何を思っている

あの日の不始末を蘇らせる
深い夜の再来

＿


「ああ、いらっしゃい」


そう言って笑う寂雷さんはどこか憂いを帯びていて
前のこと、引き摺っているのだろうかと、否が応でも考えてしまう


リビングに上がり、そこで立ち止まった
これ以上深入りすると、全てが台無しになる気がした


寂雷さんが俺の顔を見る
言葉にする前に、感情が爆発して、涙がこぼれそうになった




今は泣くな
もう、進むって決めたんだろ





「寂雷さん。俺たちもう、別れましょう」





口にすれば呆気なくて、でもそれは決して軽いものではなくて
口にした瞬間、全てが遠ざかっていくような無力感に襲われた



「…それが、君の、決断かい」



見開かれた目を、細め
寂雷は震えそうになる声を必死にいなす



「はい」



月貴も『終わり』を噛みしめながら、力強く応える



「君の決心は揺らがないのだね」

「…駄目なんです。俺は、寂雷さんのことを疑った。その時点でもう、駄目なんです」



酷いことを言われたって、好きでいられた
寂雷さんにその気がなくても

けど、このままじゃだめだ
俺のためにも、寂雷さんのためにも
終わりにするって決めたんだ



「そう、わかったよ」



何を期待していたのだろう
さして動揺している風でもない寂雷さんの反応に傷ついていた
ああ、やはりその程度なのか

さようなら
深く頭を下げ、背を向けた

もう追ってはくれないのだな



一緒に映画を見たり
買い物に行って、料理をした
偽りの日々の中に
一つでも、貴方の本当の笑顔があったなら




「私も君に言いたかったことがあるんだ」




後ろからの声に振り向くことはしない




「あの日のこと、本当に済まなかった。そして」




振り向いたら最後、押さえつけていた気持ちの箍が外れるだろうから
俺は、今でもあなたのことが




「私は君のことが好きだ」

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