【ヒプマイ】 シークレット・バース 【男主】

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「月貴」



殴られたような衝撃に、目を見開く

しかしその声は
最近良く聞いていた声



「＿くん、と呼んでもいいかい？」



揶揄うような笑みは何度も見た
こうして追われるのは2度目だ

座り込んでいる月貴には寂雷の足元しか見えない



「…俺が下の名前で呼ぶまで、呼ばないんじゃ」
「気が変わったんだよ」



その体の後ろに、人を探した
しかし昔見た顔はそこにはいない

寂雷の顔を見る
笑っているがどこか虚ろだ

どうしてこうなったのだろう

楽しい休日だったはずだ
こんなことなら、ヨコハマに来るんじゃなかった



「今日はもう、帰ろうか」



そう言って差し伸べられた手をとることができない
銃兎から何か聞いたのだろうか
失望した？
可哀想に見えた？
どちらにせよ、もうたくさんだった



「月貴君」



腕を引っ張られる
呆然と立ち上がりその顔を見つめる

同情も失望もない
いつもの笑みだけ


「…はい」


ただなすがまま従った
霞がかった脳では、食欲は二の次だ
＿


シンジュクに戻るまでの時間が酷く長く感じた
同じ空気のはずなのに、胸のつかえが下りたように呼吸がしやすい


「今日は、すみません」
「ほら、また。そうやってすぐ謝るのは君の悪い癖だよ」


ヨコハマで腕を掴まれた時の叱るような目とは違う
甘ったるい



「月貴君、今日は…うちに来ないかい？」
「え」



その誘いがどういったものなのか理解できない

気が重い

普段なら飯を出された犬みたいに喜んだだろうに
今はそんな気分ではない



「今日は…」
「君と一緒に居たい。ダメかな」



気恥ずかしそうに、目を逸らされる
生唾を飲む

なんですかそれ
そんなの今まで言ったことなかったのに
急にどうして

狡い



「わ…かりました」



断れない
わかっているからこの人はそんなことを言ったんだ

俺を引き留めるための口実
それでも口車に乗る俺は馬鹿だ


いつのまにやら、日は暮れ＿

＿


流石に料理という気分ではない
買った惣菜をテーブルに雑に並べ二人で摘む


「先生？」
「…月貴君、入間君と何があったんだい」


ああ、と声が出なくてよかった
目的はやっぱりそれか

何も聞いてないのか？
…もう隠す様な事でもないけど



「…俺が、高校生の時＿」



先生は、ただ興味があるだけなのだろうな
程度の認識だった
少なくとも月貴にとっては面白い話ではない

だから
獲物の呼吸すらも支配しようとする眼に、月貴は気が付かない

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