能力荘の非凡な毎日 (ページ1)

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俺は息をする【御薬袋涼雅】ページ1

お袋と親父が死んだ。
眉間に皺を寄せる叔父さんの一言で、俺はいきなり、ばちんとどん底に叩きつけられた。
お通夜から告別式やらはすぐに終わっていた。
息苦しさ、居心地の悪さに気付いたのは、中学校を卒業した直後の事だった。

　―独り立ちしたい。

俺は、いつの日かそう思うようになっていた。
だから、だから俺・御薬袋涼雅は昨日、片時雨館へとやって来たのだ。
☆ ★ ☆ ★
小鳥のさえずりが聞こえる。
その声が、俺を一気に現実へと引き戻す。
俺は驚いてばっと上体を起こした。布団は汗でぐっしょり濡れてしまっていた。

―なるほど、気持ち悪さの根源はこれか。

俺はそう思って、もぞもぞと布団から這い出て立ち上がる。
窓からは、静かな朝の陽光が差し込んでいた。
辺りを見回すと、見慣れない壁とタンス、机類。机の上には、まだ目を閉じている「蘇芳」が。
蘇芳の寝息をＢＧＭに、何故ここにいるのか必死になって記憶をまさぐる。
そうか。
脳が、結論を出した。
ねばつく口を動かして、声を出す。

　「俺…片時雨館に来たんだった…！」

改めて声に出してみると、ああ片時雨館に引っ越してきたんだという実感が自然と湧くのが判った。
あれ…？今朝だよな、俺はこれから何をすればいいのか…？
頭の後ろに右手を回し、呆然として立ち尽くす俺。蘇芳が目を開けた。
ばさっと音もなくその茶色の翼をはためかせると、蘇芳は俺の肩に着陸した。
そう、もうお察しかもしれないが蘇芳は鷹匠―といっても趣味の程度だが―である俺の相棒の鷹である。
だから…肩にこいつの爪が食い込んで、それがもう痛くて痛くて仕方がないんだ！
蘇芳は何も言わず、すました顔で翼を元に戻す。爪の食い込みが弥増し、遂に限界が来た。

　「おい…蘇芳！いてえから離れてくれよ…」

仕方ないな、とでも云いそうな不貞腐れた顔をして蘇芳がバサバサと俺の肩を離れた。
次の瞬間、死にそうなくらいの痛みが、火が消えるようにすっと離れていった。
ふう、これでいいだろう。

　「とにかくだ、蘇芳！朝と云えば朝メシに決まってるだろ！だから食堂かコンビニに行くんだ！」

そう言ってぐっとこぶしを握り締め、腹の底から声を出す。

　「行くぞ、蘇芳！」

―あ…俺、鷹に向かって叫んでたじゃねえか。