悪夢という名の天国 ページ30
時間は待ってくれない、時は無情にも過ぎていく。たとえ何があろうと、それは一刻と過ぎていく。
ファウストとの対決以来、Aは妙に嫌な夢を見る。
嫌な夢、それは今の自分にとっての嫌な夢。つまり、過去にとっての自分には物凄くいい夢。Aは目を瞑り、浮くような感覚に身を委ねる。意識は真っ白に。
そして、場面はとある場所に。
ここは一研究室。どこにあるかも分からない、だけどここが自分の昔の居場所だということを、夢の中のAは覚えていた。幼い姿の少女がクマのぬいぐるみを抱き抱えたまま歩き出す。
「響子おばさ〜ん!どこ〜?」
「おばさんじゃなくて、お姉さんでしょ!」
「あ、あ〜っ!!こめかみ!!こめかみがっ!!」
白い部屋。グリグリとこめかみを拳で刺激され、Aが痛みに声を上げる。そんな様子を見兼ねたように、白衣を着た男が声をかけた。Aがそんな彼を見つけ、走って飛びつく。
「麻生おじさま!」
「相変わらず元気だな、A。今日の検査は受けたか?」
「今日も苦手な採血頑張ったのよ?それなのにおばさんったら、私を虐めるの!」
「あんたが、おばさんって呼ぶからでしょ!!」
「仕方ないさ。Aのような年の子から見れば、18でもおばさんだ」
「麻生さん!!」
麻生と呼ばれた男が、クスクスと笑うAの頭を撫でる。そんなAを愛おしそうに見つめる滝。Aがクマのぬいぐるみを抱きしめて、彼女の手を握った。Aは父の研究チームの部下だった滝を存外気に入っていた。いつも彼女に優しい滝。歳もここにいる他の人たちよりも近く、女心をわかってくれている。そんなAにとある少年が近づく。
「A」
「あら、今日はお父様とは一緒じゃないの?」
「父さんは仕事だよ、今日は僕一人」
「ーーはAのことが大好きね。博士に一人でも会いに行くってワガママ言ったんでしょ?」
「ち、違う!!別にワガママじゃなくて…!!」
白いその場所、笑い声の絶えないその場所が居場所を失くしたAの宝物だった。
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遊真 - これから主人公がどうなっていくのかが凄く気になります!これからも頑張ってください! (2019年8月14日 16時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
リナ - しゅりんぷさんの作品、早く読みたいです! (2019年8月6日 23時) (レス) id: cfdd277789 (このIDを非表示/違反報告)
篝月(プロフ) - 初めから読んだので、続きが凄く気になります! (2019年5月24日 23時) (レス) id: 7982b0814b (このIDを非表示/違反報告)
しゅりんぷ(プロフ) - 白哉さん» コメントありがとうございます。ソウルバーナーいいですよね。いつか二人も出せるようにしたいなとは思っております。それまでどうかこの小説とお付き合い願えたら嬉しいです。 (2019年4月1日 1時) (レス) id: a80e55b6ef (このIDを非表示/違反報告)
白哉 - できたら穂村尊とフレイム(ソウルバーナー)を出してほしいです。 (2019年1月20日 17時) (レス) id: 8418d83dca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しゅりんぷ | 作成日時:2017年12月13日 0時