恋曜日25時のkissカクテル〜短編集〜

マスターの、小言 ページ1

マリアside








暖かい照明が照らすバーカウンター


そこに一人、いるあなた


空のカクテルに入ったサクランボを見つめていると







「どうぞ」






ばっちりタキシードを着たマスターの彼がそう言って
私の前に一つのカクテルを差し出してきた

透明なお酒の中に
ふわふわ金が舞っている

グラスの淵にはハートにかたどられた
ピンクグレープフルーツが





マリア「私このカクテル頼んでなくて…」

「存じております。わたくしからのプレゼントです

　迷惑でなければ、どうぞ」





周りを見渡してみれば
バーには私と彼だけ



そう
彼はきっと私に気を遣ったのだろう







マリア「このカクテル、なんていうんですか？」

「このカクテルは、kissカクテルです」

マリア「kissカクテル？聞いたことない…」

「そうですね。当店オリジナルのカクテルです」


マリア「へぇ〜…。いただきます…

　…わあ、ものすごく甘い

　でもすごい度数高いですね…」


「呑みすぎには注意ですよ」







彼は目を伏せて私から遠ざかった

グラスを拭く動作に戻ってしまう………








マリア「…あの、なにかお話ししてくれませんか？」







私は思い切って引き留めてみた







「お話？…私でよければ話し相手になりますよ」







私は彼を引き留めることに成功したみたい

グラスを拭きながらさっき話していた位置よりも
少し近いところに彼は来た







マリア「話し相手、というより

　店員さんのお話を聞きたいんです」


「僕のですか…」


マリア「あっ…私マリアって言います

　失礼ですが、お名前は…？」


「マスター、で、いいですよ笑」







ちょっと恥ずかしそうに言った彼を見て
私もちょっと恥ずかしくなる


マスター、なんて
聞いたことあるのはドラマだけだもん







マリア「…ますたー」

「…ふふっ笑」

マリア「笑っちゃだめですっ」

「失礼いたしました」


マリア「何のお話でもいいんです

　ますたーのお話を、聞かせてください」


「おはなし……では

　このお店にいらしたお客さんに聞かせてもらった中で

　印象に残っているお話をしましょうか」






彼はそういうとポケットから手帳を取り出した


あれは、ネタ帳なのだろうか…？





「えーっと…登場人物は

　僕が勝手に名前を付けさせてもらいますね」


マリア「よろしくお願いいたします」





マスターが喋りだす前に
私は一口、kissカクテルを飲んだ





彼は、私を見て微笑んだ後
話し始めた








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