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部屋には俺とAがペンを走らせ、パソコンのキーボードを打つ音だけが聞こえる。
会話なんて一切無し。
そんな空気に耐えられなくなった。
「あのよ、」
「喋らないで。気が散る。」
真っ直ぐ意識を仕事に向ける姿勢は尊敬する。
俺は書類仕事よりも外に出て身体を動かす方が性に合ってる。ずっと椅子に座りっぱなしは正直苦手だ。
此奴の横顔を見ていると手が止まる。
可愛い、好き。
沸々と湧き出る気持ちを静かに収めて再び書類に向き合い、手を動かす。
音だけが鳴る時間がどれだけ過ぎただろうか。
隣でふう、と一息ついたAは立ち上がり何処かに行く。戻ってきたAの手には二つのコップがあった。
「少し休憩しましょうか。」
「お、おう…。さんきゅ…。」
「で、何?」
「あ?何が。」
「さっきからちらちらと視線がうざいわ。」
「っ、げほっ…。」
気付かれてた…ッ。
どうにか云い訳を考えるが、俺を見つめる視線にどき、と脈打ち、脳が働かないのを自覚する。
せっかく二人きりになれたんだ。
少し位、素直に…、
「か、わいいと思って…。」
「……一寸医療班呼ぶわ。」
「何でだ!!」
「貴方がそんな事云うなんておかしい。顔も赤いし、なんなら少し涙目よ。辛いの?」
「お前…、マジでありえねェ…。」
デスクに突っ伏す俺を少し心配そうに見る此奴を見て、心配してくれてんならまあいいかと思ってしまう俺は存外甘い。
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作者名:汎用うさぎ | 作成日時:2024年2月5日 20時