片思い。〜南雲鉄虎編〜[3] ページ16
「A殿!いっ、今の振り付けは合っていたでござるか?」
「なっ、南雲くん…。ここもう一回見せて。」
私たちの動揺が伝染したかのように、レッスンは終始ぎこちないものだった。
仙石くんだけでなく、高峯くんもそれを誤魔化すかのように普段より口数が多い。
反して元々無口な私はより一層言葉を発さず、南雲くんに至っては全く喋らなかった。
仕事なのだからと割り切ろうとすればするほど、口も体も思うように動いてくれない。
時間だけが淡々と進み、内容としては本当にお粗末なものであった。
「南雲くん。」
レッスンを終え、帰り支度をし始める南雲くんを引き止めた。
名前を呼んでみたのはいいが、後に続ける言葉が浮かばない。
「よぉし帰るぞ!じゃあまたな、南雲とA!」
沈黙を打破するかのように、守沢先輩は後輩と深海先輩の背中を押す。
彼らもまたその意図を汲み取ったかのように部屋を出た。
普段は松○修造ばりに熱い守沢先輩だが、こういう時は必ずといっていい程空気を読んでくれる。
部屋に残され、きちんと話をする環境が整い、上手くは話せないけれども一つ一つ思うことを述べた。
「さっきのことは事故なんだし、とりあえずお互いもう忘れよ?」
「…Aさんは冷静なんスね。」
あまり恥ずかしがって話しかけると余計に気まずくなりそうだったので、普段のノリで会話を始めた。
しかし、南雲くんは全く目も合わさず冷たく言葉を吐く。
もちろん冷静などではないのだが、先輩としてフォロー出来ればと必死なだけだ。
「そんなことないよ。実際かなり動揺してるし。」
「Aさんにとっては忘れることは出来るかもしれないッスけど、俺は…っ!」
冷たく言い放ったと思えば、今度は何かに怒りをぶつけるかのように声を荒げ室内に声が響く。
普段とは違う彼の様子に怯んでしまうが、ふとある考えが浮かんだ。
レッスンに影響が出るとか、体裁ばかり気にして南雲くんの気持ちなど全く考えになかったのだ。
「ごめん…無神経過ぎたね。南雲くんがそこまで傷付いていたなんて…。」
「違う!」
気を遣ったつもりが、返って逆鱗に触れたかのように否定される。
他に何を言えばいいのかもわからないし、安易に喋るのもよくないと思い黙り込んだ。
気持ちを整理するかのように、彼もまた黙り込み沈黙と重苦しい空気だけがひたすら流れる。
「…俺、Aさんが好きッス。」
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作者名:とーこ | 作成日時:2018年7月14日 21時