4.毎夜のおやすみ ページ6
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もともとはただの暇潰しだった。
寝たくない。
けれどなにもしなければ眠くなってしまう。
ただ、睡眠を回避するための道具が映画だっただけだ。なんなら、夢中になれるものであれば、ゲームでも漫画でも小説でもいい。
だから、私の部屋にはそういうカルチャーが溢れていたしそれを借りに来る同期や先輩もいるにはいた。
ただ、きっと誰一人として私が睡眠を怖がっていたのは知らないはずだ。
長時間の睡眠はいらない。ただ、生命活動に必要な時間だけでよかったんだ。
「A、今日はなに見てんの」
「んー。なんだっけ。アラビアのロレンスってやつ」
深夜の談話室。眠そうに大きなあくびをして入ってきたのは、長身の五条くんだった。
真っ直ぐ水場の方に行って、どうやら喉が乾いていたらしい。
いつも通り映画を見ていた私はソファで膝を抱えてそれを目で追った。
「なにそれ?戦争もの?」
「ちがう。確か伝記映画」
画面で広がるのは主人公ロレンスがラクダにまたがり砂漠をかける名シーンだ。
おもしろい?と聞かれて普通と答える。著名な映画だけあって普通におもしろいけれど、ベタ感はあった。
これも時代なのかもしれない。
これは五条くんの好みにはハマんないかもなぁと思いながら、炭酸水に手をかけた。
「五条くんはなにしてたの?」
「傑と桃鉄」
「へぇ、渋いね」
「いま、99年やってて気晴らしに下にきたところ」
「99年……、それ絶対今日だけじゃ終わらないじゃん。3日?5日??もっとかかるんじゃない?」
「まぁな。だけど楽しいぜ」
へぇ、若いなぁ。と素直に思った。
彼らはきっと3日以上ぐらい完徹するんじゃないだろうか。任務と授業でゲームできる時間も狭められているし……終わるの一体いつなのか。
そーいう夜の過ごし方もいいなぁ、と思ったけれど私にはそれを一緒にやる友達はいないと心の中でしょげた。
同時に、寝たくない私と正反対に、楽しくて寝られない彼らが羨ましいと思う。
「……なに笑ってんだよ」
「いやぁ。いい友達だね」
「…こんどAも誘ってやるよ」
「!!」
もう、水を飲んで部屋を出て行こうとする五条くんの顔は見えない。
たった一人で毎夜映画を見る先輩を哀れに思ったのだろうか。
その真偽は定かではないが、すこし嬉しかった。
「機会があればね。傑くんによろしく」
おやすみって言った声には、
おやすみは帰ってこなかった。
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かるうら(プロフ) - 50話分しかなかったはずなのに、今までにないくらいの重量感で恐れ入りました。なんだか第5章くらいまで読んだ気分です。2章に行って参ります! (2020年8月3日 21時) (レス) id: 2c64977e89 (このIDを非表示/違反報告)
サイコロ - 最の高だ…推しが絡んでる… (2020年3月19日 16時) (レス) id: d3e3d1ba1a (このIDを非表示/違反報告)
さとう - とても面白いです!応援してます! (2020年3月9日 19時) (レス) id: 74e459d58c (このIDを非表示/違反報告)
朱鷺(プロフ) - 吉田さん» いいえ!神様は芥見下々先生です!!!でも、そう思ってくださり嬉しいです (2020年3月6日 22時) (レス) id: b5f5114d16 (このIDを非表示/違反報告)
吉田(プロフ) - 作者様は神でしょうか?( ˘ω˘ ) スヤァ… (2020年3月5日 1時) (レス) id: fb4495920c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朱鷺 | 作成日時:2020年1月19日 23時