[文スト]中島敦には、可愛い双子の妹が居ます:2[中島敦]

56:優しさは自分を殺す ページ20

「俺は先に社に戻って報告する。敦、A」

くいっと首を動かし、廊下へ出るように合図する国木田。

Aはその合図の意味を予想できたが、分かっていないように廊下へ出た。

「娘を軍警に引き渡せ」

「………！」

『(やっぱり………)』

「でもそんな事したら」

「35人殺しなら、まず死罪だな」

敦の言葉に被せるように言われた冷たい言葉。

しかし、それが現実なのだ。

「だが、マフィアに戻しても裏切り者として刑戮される」

「そんな！」

感情が変わる敦とは裏腹に、Aは無表情。

そして漸く口を開いた。

『じゃあ、お兄さんが助けられますか？』

「……え？」

『極刑の手配犯でマフィアの裏切り者……

その不幸を凡て肩代わりする覚悟が……お兄さんにありますか？』

いつもとは違う、何も感じない冷たい声。

「……それは」

「敦」

国木田に呼ばれ、顔を上げる敦。

「不幸の淵に沈む者に心を痛めるなとは云わん。

だがこの界隈はあの手の不幸で溢れている」

「………」

「お前の舟は一人乗りだ。

救えない者を救って乗せれば＿＿＿共に沈むぞ」

『お兄さんは優しいです。
でも、それが自分の身を滅ぼすことが在ることも……

忘れないで下さいね』

国木田はその話を聞いて、探偵社へと戻った。

「(でも…だとしたら太宰さんは何故僕たちを助けたんだ？)」

敦の中に浮かんでいた疑問に、二人は気付かなかった。

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