陸 ページ6
「…これはなんだ。」
「みかんジュース。」
今日はみかんジュースを選んでみた。
私はいつもの林檎ジュースである。
「あー、美味しい!貴方は飲まないの?」
「俺は飲まないと言っている。人の話を聞け。」
ちょっと声は怒り気味だ。……いや、呆れた雰囲気もある。ここ数日一緒にいるせいで彼の性格がだんだん分かってきた。
「いつも言ってるでしょ?
一人だけ飲んでたら気まづいじゃない。
受け取るだけでいいから。見返りなんて求めないわ。」
「……はあ。」
今度はため息を吐いた。最初の頃よりは軽いため息だった。
昨日はパインジュース、その前はフルーツジュース、その前は確かいちごミルク、
種類を変えて、この数日間渡し続けた。
相変わらず彼は口につけないが、帰ってから飲んでくれているらしい。この前渡した抹茶オレの感想をさんざん聞かされた。抹茶はやはり抹茶として飲むのが一番、だそうだ。
…ここで飲めばいいのに。
相変わらず同じような演練場の景色をみた。
「_お前はどう思う?」
「どうって?」
「……どちらの部隊が勝つとみた?」
かなり真面目にそんなことを聞いてきた。
……一体どういうつもりなのか知らないが、答えない理由があるわけではない。
取り敢えず、どう言えばいいのかわからないで説明付きで全部口に出してみた。
「_つまるところ、刀の経験値にもよるけど…向こうの審神者の方が有利…ってところかしら。
でも、少しつまんないわね。」
「何がだ?」
指をさしながら、理由を言った。
「ほら、あの審神者さんって同じ攻撃パターンしかとらないし同じ刀剣男士ばかり出してるからあの人の采配はほぼ見切ってるのよ。
見る側としてはそんなに勉強にならないし、せっかくの演練場なわけだから色んな戦いを見せて欲しいわ。
…こんなこと私が言う権利ないけどさ。」
「その言い方だと出場する審神者の戦い方を全て把握していると捉えることもできるが?」
「まさか。…そこまで頭は良くないわよ。」
そう言っている頃にはすでに私の予想が当たっていた。
「…惜しいな。」
「何が?」
「いや、なんでもない。」
私がもう一度聞いても、決して答えようとはしなかった。
そうして何戦目かが過ぎた頃、ある女の人が目に入った。
あの女を忘れるはずがなかった。
「…っ…。」
「どうした?」
「ちょっと行ってくる…。」
フードの男が後ろから何か言っていたが、それを放置して早足に向かった。
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作者名:沙恵燬 | 作成日時:2019年2月1日 1時