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「…自害する怖さは、俺もわかります。一回失敗したあとの方が怖くなることも、知ってる」
呟くようにそういったAの様子を見て、まさかまた考えていることが口から零れていたかと焦ったが、今度はどうも違うようだった。
Aの視線は俺を見ておらず、どこか虚空を見つめている。
A自身も、自害を試みるほど追い詰められたことがあるのかもしれない。
想像だけで語っているようには、思えなかった。
「そうか、お前も色々あったんだな」
「でも、その時はジンが助けてくれました。だから俺は生きてることを後悔していません。けれど、あなたは…その、」
言葉はなくとも雄弁に語るその揺れた瞳に、どうも庇護欲を刺激されて堪らない。親心と言うよりは兄心のような、とっくに無くしたはずのそれが自分の中で徐々に大きくなってくるのを、感じていた。
「ああ。俺も、今回はグズグズしてたおかげでお前に拾ってもらえたから良かった」
「そう、ですか。すみません、言わせてしまったみたいで」
「構わない、本心だから安心しろ」
よかった、と素直に顔を綻ばせるAのあまりの純情さに、いっそ全て計算ではないかと疑ってちらりとジンを流し見た俺に、奴は口パクで “無自覚だ” と言ってきた。
それから、“諦めろ” とも。
なるほど、ジンもこうやって懐柔されていったらしい。冷酷無情の呼び名を欲しいままにしていたはずの奴でも敵わなかった相手に、俺が太刀打ちしようとするだけ無駄だろう。
ご忠告の通り諦めて受け入れることを心に決めた俺は、そのままジンの方を見て、改めて唯一の条件を口にした。
「そういうことだ、ジン。邪魔になったら、見捨てる前に殺してくれ。あんたの弾なら、楽に逝けそうだ」
「わかった、任せておけ」
「よろしく頼む」
それから、ジンの方から早速いくつかの命令が与えられて、その全てを俺が了承するとすぐに、拘束は解かれた。
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作者名：櫂渦【とーか】
| 作者ホームページ：https://www.pixiv.net/users/28997649
作成日時：2023年5月28日 23時
