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まず、あからさまに目の前で怪しげな薬を入れられた茶に手をつけたというA。
いくら何でも、その危機感の無さはいかがなものか。
Aの薬に対する耐性の程度は知らないが、仮に死なないまでも、効果によっては苦しまされる可能性も十分にあっただろうに。
それから、ジンがそれを黙って見届けたという話も驚きだ。
しかも、Aが眠ってしまった後にさえ奴がシェリーや明美に手を上げることなく、それ以降も特にお咎め無しで済まされたということに至っては、もはや嘘を疑いたくなるレベルでしかない。
これまで描いてきたジンという男の人物像が、そしてジンとAとの主従関係のイメージが、音を立てて崩れていったような心地がした。
明美の話は、尚も続く。
「私たちは選択肢がないのに、Aはジンにも…つまりは組織にも意見できるっていう不公平感が、志保にはきっと我慢できなかったのね。
でも、それがAに対する八つ当たりだってことは、きっとあの子自身が誰よりもよくわかっていたはず。わかっていたけど、抑えきれなかったんだと思う」
いくら賢くて振る舞いが大人びていたとしても、当時のシェリーはまだ義務教育を受けていておかしくない年齢だ。唯一の家族である姉と会うことすら制限され、年の離れた大人たちに囲まれ、過度のストレスに晒され続ける日々の中では、ふと爆発した感情が制御できなくなることもあるだろう。
「だから、本当なら私は姉として、志保の行動を止めてあげなきゃいけなかった。それができなくてもせめて、Aじゃなくて私が、あの子の想いを受け止めてあげるべきだった。でも、私はどうすることもできなくて、代わりにAが体を張って志保の心を守ってくれたの」
「…お前も、俺のせいで組織から色々と圧力をかけられていたはずだ。酷くストレスが溜まっていたのは、妹だけじゃないだろう」
「疲れていなかったとは言わない。でも、それを言い訳にしちゃダメなの。だって、私はあの子のお姉ちゃんだもの」
意志を持った強い瞳で言い切った明美は、それから一瞬の後、今度はくしゃりと笑って、また口を開いた。
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作者名：櫂渦【とーか】
| 作者ホームページ：https://www.pixiv.net/users/28997649
作成日時：2023年5月28日 23時
