1028. お姉ちゃん。 ページ29
[-赤井’s side-]
「それじゃ、すぐにお茶を出すわ」
「すまないな、邪魔をする」
「どうぞ。あ、靴は脱いで上がってね」
「わかった」
明美に促されるまま、玄関先で脱いだ靴を揃える。約束の物の準備ができたという連絡を受けた俺は今日、仕事の休みを利用して、彼女の家を訪れていた。
無事にカルバドスの死亡を偽装する情報を流し終えて本国での仕事も完了し、明日には再び日本へ戻ろうかと考えていたところだったから、タイミングは完璧だ。説明は事前に済ませてあったから、物を受け取ったらすぐにでも立ち去って、飛行機の予約でも取る予定だった。
だが、せめてお茶だけでも…という彼女の優しさには敵わない。何より、許されるならば少しでも明美と共に過ごしたいという俺の気持ちも、少なからずあった。
そのくせ、いざ話をするとなると内容が組織に関連することばかりになってしまうのは、俺たちの特殊な関係上、仕方ないことなのかもしれない。少なくとも、どうでもいい天気の話をするよりは余程有意義だった。
「今回の件もそうだが、やはりAは君たちのことをいたく気に入っているようだな」
案内されたリビングのソファに腰掛けた俺の言葉に、明美はくすぐったそうに笑う。
「うん、昔から私たちに気を配って、大切にしようとしてくれていたのは確かだと思う。私のお願いだからってだけで、秀君を志保に会わせることも快く許してくれたでしょ」
FBIの仲間たちが俺をシュウと呼ぶせいもあってか、明美は俺の事を秀君と呼ぶ。いい歳をして君付けをされるのは流石に気恥ずかしくもあったが、俺の名を呼ぶ彼女があまりにも嬉しそうに笑うものだから、俺は結局、呼び方を変えてくれとは言い出せずにいた。
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作者名:櫂渦【とーか】 | 作者ホームページ:https://www.pixiv.net/users/28997649
作成日時:2023年5月28日 23時