【そらる 】空待つ初の音。/白椛 ページ1
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あなたは、『初恋』を覚えているだろうか。
覚えているならば、それはどんな記憶?
景色? 匂い? 感触? それとも、味?
私? もちろん、覚えている。私の『初恋』の記憶は……
***
高校生。放課後。音楽室。
この3つが揃ったら、何かが起こりそうな感じがする。例えば、少女漫画のような恋の出会い、とか。
「……なぁんてね。そんな夢物語、あるわけないっ」
ジャーン。
適当に鍵盤を叩き、不響和音で自分の思考を乱す。もしここに彼が現れたら、それはきっと夢か幻。だって私以外、彼の存在を知らないのだから。
***
私の初恋の記憶は、小学校に入学したての頃。
その頃の私はとても人見知りで、クラスに馴染めずにいた。放課後、毎日ひとり。ブランコで空を飛んでいたり、図書室で本の中を冒険したり、たまに先生のお手伝いをしながら過ごしていた。元々ひとりが好きなのもあって、寂しくはなかった。
そんなある日。たまたま、気の迷いで。いつもだったら絶対に面倒臭がって行かない、旧校舎の最上階の一番奥。余程の事がない限り使われる事のない、第2音楽室。音楽室というよりは、使っていない楽器置き場に近かったような気がする。
とにかく、その時の私は何故かそこに足を運んでいた。今思えば、彼に出逢うためだった、なんていうのはファンタジー小説の読みすぎかな?
薄暗くて、人の出入りがないから少し埃っぽくて。でも、私ひとりしかいないような世界に、ちょっとだけわくわくもしてた。大きなピアノの前に座って、弾くわけでもなく、ただ窓からの景色を眺めていた。静かに、黙って、ぼーっと。そうしたら、シャラシャラって、綺麗な音色が聴こえてきた。
音の発生源は隣。第2音楽準備室。他の人がいることにびっくりした。そうっと覗いてみて、またびっくり。とっても綺麗な男の子が、ギターを弾いていたのだから。
その小さな体で抱えるのがやっと、とでも言いたげな大きなギター。ビー玉の中に
パチン。
不意に顔を上げた青と視線が絡む。それが、私と彼とのファーストコンタクト。びっくりしたように見開いた瞳を柔らかく細めて。
「えっ、と……おいで?」
ちょいちょいっと。小さく、照れくさそうに手を振る彼に、ちょっとだけの罪悪感。でもそれ以上の好奇心で、彼の手に手繰り寄せられた。
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ほさと - とても感動しました。占ツクの歌い手様を扱った作品には珍しくしっかりと小説になっていて、一介の読書好きとしても嬉しかったです。どの作品もとても美しい比喩があり、音読したい作品だなぁと思いました。 (2019年7月14日 20時) (レス) id: fdc2472f82 (このIDを非表示/違反報告)
弓乃 - 皆様の素晴らしい文章に心が震えました。ありがとうございます。執筆お疲れ様でした。これからも頑張って下さい。 (2019年6月17日 16時) (レス) id: d99258de7b (このIDを非表示/違反報告)
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