4話 ページ6
彼は週に必ず一回、多い時には二回私に連絡を入れてくる。呼び出された時にはちゃんとデートをしてくれるし、プレゼントもくれる。端からみれば普通のカップルだ。必ず夜を共にし、彼に抱かれている時には愛も囁いてくれる。
だけど……彼は、私の名を一度も呼んでくれたことがない。「君は、君って、君さ…。」名字でさえ呼んでくれない。それを、指摘したことはないけれど。きっとそれこそが、彼が私を愛していない証明なのだろう。
ーーー本当は、気付いている。抱かれている時の愛の囁きも、私に向けられたものでないことも。
彼には、最愛の人がいる。けれどその人は決して彼の手には入らない。だから、その気持ちを…ただ、私にぶつけているだけなんだ。
?「Aさーん♪」
あ「うわっ!?ハイルちゃん!もう…びっくりするからいきなり抱きつかないでって言ってるでしょう?」
ハイル「えへへ〜♪だってAさんだーって思うと体が勝手に動くんだもん♪」
あ「ハイルちゃんたら…。」
郡「ハイル。彼女が困っているでしょ。早く離れなさい。」
ハイル「むぅ〜。」
あ「……。」
氷のように冷たい、彼の視線が突き刺さる。私はなぜか、ハイルちゃんに慕われている。彼はそれが気に入らないのだ。
彼の、最愛の人……伊丙入。彼は彼女のことをとても大切にしている。特に郡さんに確認をしたわけじゃないけれど、彼をずっと見てきたんだ。彼女を見る彼の目が、恋心を抱いているものだと一瞬で分かった。
だけど彼女は、郡さんのことを見ていない。彼女の瞳に映っているのは、いつでも有馬特等だけ。それが恋心なのか、尊敬なのかは分からないけれど、確実に…彼女は有馬特等を特別視している。だからこそ彼は、彼女に気持ちを伝えないんだと思う。
ーーー私は彼女の埋め合わせ。私という人間が必要なんじゃない。ただ彼の言うことを聞く、都合のいい操り人形が欲しかっただけ。……分かっているのに、離れられない。私は彼女に、酷く嫉妬してしまう。無垢な彼女を、壊してしまいたいと思うのだ。分かっている。彼女は悪くないのだと。だけど。………だけど。
あ「ああ……本当に、ムカつく。」
1人零した本音は、私のドロドロとした部分を拡げていく。いつか真っ黒に染まってしまうんじゃないかな。
………その時は、私が壊れる時だ。
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作者名:歯磨き粉 | 作成日時:2017年1月16日 23時