9話 ページ11
それからの時間は、穏やかに過ぎていった。いつでも部屋に郡さんがいてくれるという夢のような日々は、言葉で言い表せないくらい幸せだった。
ーーーけれど、そんな時間も長くは続かなくて。
郡「ちょっと出かけてくる。今日は戻らないから、寝ちゃっていいよ。」
あ「あ……そう、ですか…。あの……どちらへ…?」
郡「君には関係ないでしょ。私にだって、1人になりたいときぐらいあるよ。」
あ「……そうですね。ごめんなさい。」
郡「…行ってくる。」
最近、郡さんの外泊が多くなった。私と、目を合わせてくれなくなった。私を、抱いてくれなくなった。そして……私をハイルと呼ばなくなった。これが意味することを、私は知っている。けれど、認めたくなくて、知らないふりをしていた。だって私には郡さんしかいないから。
あ「…っ…。」
何度、彼を想って涙を流しただろう。私はなぜ、こうも愛してもらえないのだろう。
もう、以前の私に戻ることなど到底不可能なくらい、私の生活の中心には郡さんしかいなかった。何もかも捨てて、あなただけに尽くしてきたのに……あなたは私の知らない居場所を見つけてしまったのね。
ーーーどうして?私の何がいけないの?こんなにも郡さんが愛しくてたまらないのに。あなたにならば、命でさえも捧げていいとさえ思っているのに。なぜあなたは、私に愛情を向けてくれないの?ほんの少しでもいいのに……。ううん、むしろ、愛情なんていらないからずっとそばにいてほしい。多くを望む私がいけないのなら、他に何も望みはしないから。
お願いだから私を捨てないで。
私以外の、女のところになんて行かないで。
あなたが望む、ハイルちゃんを演じきるから、だから………。
あ「もし、私を捨てるのなら……」
もし、私以外の女を抱いているのなら……
あ「そんな郡さん、いらない。」
ーーー殺してしまおう。私の前から消えてしまう前に。ずっと私のそばにいてくれる郡さんを作ってしまおう。
いいよね?それくらい、許してくれるよね?
だってーーー
こんなに愛しているんだもの。
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作者名:歯磨き粉 | 作成日時:2017年1月16日 23時