仕事終わりの貴方へ(むつさに) ページ24
「お、来たのう」
今日も頑張っちょったの〜と、片手を上げ声をかけてくるのは近侍の陸奥守。
あれ、今日迎え頼んだっけ?と頭をよぎった疑問に答えるように、彼は口を開く。
「ちっくと、デートでもしようかと思うての」
月は、彼の悪戯な笑顔を照らしていた。
「今日は珍しく晴れて良かったのう!七夕は雨ばかりやき、これもおんしの力じゃろうか?」
月に負けないほどの笑みを浮かべこちらを見てくる陸奥守。私は目線があわないように慌てて逸らして、そうかもね、と小さく返すだけで必死だった。
だって、だって。デートだなんて言われたら意識してしまう。ただでさえ、日頃から彼に参っているというのに。
いつもは何を思う訳でもない帰り道が、今日は色んなことを思ってしまう。ふわふわして、落ち着かなくて、嗚呼、恋とはなんと厄介なものか。
少し涼しいはずの夜が、酷く暑く感じた。
「のう、主」
静かな夜。陸奥守のいつもより少し抑えられた声が響く。どうしたの?そう返し終わる前に彼の大きな手によって、私の手が包まれる。ぐい、とその手を引かれ、思わずバランスを崩す。
気づけば私は彼の腕の中に収まっていた。
熱いと感じるほどの体温が体に伝わる。目の前に彼の服があって、首を動かそうにも、彼の手によって後頭部が抑えられ、小柄な私は、彼のことしか見ることを許されない状況。
逃げられない。
そう頭で理解する。
「おんしだけじゃ、ないき」
そう言った陸奥守は私の耳に自分の胸を押し当てる。
心臓の音は、私の心臓の音と変わりないほどの早鐘を打っている。
「意識しとるのは、おんしだけじゃ、ない」
わしもじゃ。
耳元で小さく囁かれたその言葉は、酷く熱っぽくて。
私が彼と同じ体温になるまで、後数秒。
嗚呼。お願い、今だけは、今だけは誰も邪魔しないで。
頬に添えられた両手の誘うまま、彼の顔を見る。
きゅっと瞑ったまぶたの裏に星が流れた気がした。
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作者名:零磨 | 作成日時:2022年6月24日 21時