【3.迷える心】 ページ10
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松平片栗虎が浪士組を設立する。
そのために、剣の腕が立つ者であれば、入隊希望者の身分は一切問わないという。間近に現れた幕臣への近道。近藤家では、その話題で持ち切りだった。
近藤は即参加を宣言し、武士を目指す土方はもちろん、門下生の全員が上京することを決意する。そんな中で、近藤が剣の腕の立つAを誘うのは、至極当然なことだった。
「なぁ、津々楽さんも一緒に行かないか？」
※
「なぁオマエ、何であんなこと言ったんだ？」
「……さあ、何でだろうな？」
「俺に聞くな。自分の事だろうが」
土方は、縁側に腰掛けていたAの隣に座る。Aと話す時は、いつも鬱陶しいように顔を顰めていたというのに。土方の思わぬ行動に何度も目を瞬かせてから、ふふと頬を緩めた。
「なにニヤニヤしてんだよ？」
「別に？何でもねぇよ？」
「何もなけりゃ、そんな顔する理由はねぇだろーが！クソ、何でこんな奴のために……」
チッ。盛大に舌打ちした土方は、いかにも面倒臭いと言わんばかりの様子で、胡座をかいた脚に肘を付いた。それを横目で見ながら、外まで聞こえる仲間の楽しそうな会話に耳を傾ける。
幕臣として国のために働けることが、余程嬉しいようで、男たちは子供のようにはしゃいでいた。夜も更け、まだ幼い沖田は不在だが、このことを聞けば、あの少年も近藤らと共に上京するのだろう。きっと、そこには断るという選択肢は最初からないはずだ。
「………」
Aは、無言で紺色の空を見上げた。小さくとも、一つ一つ精一杯光輝いている星々に囲まれて、丸い月が嬉しそうに微笑んでいるようだ。月は太陽が無ければ輝けないとは言うが、太陽だけあっても月は輝けない。宵闇に煌めく宇宙の一部が揃った時にこそ、本来の美しさがある。
「……土方の言いたいことは、分かってるよ」
月を眺めたまま静かに言うと、土方はゆるりとAに目を向ける。その視線を感じながら、Aは先程の会話を思い返す。Aも一緒に行こう、と誘う近藤にAは、困ったような笑みを浮かべながら、こう言ったのだ。
『少し、考えさせてくれないか？』
土方や、他の仲間達のように即答出来なかった。
断る理由はない。だが、Aが近藤らと共に江戸に出て、幕府のために命を掛ける覚悟もまた不十分だった。Aの目に、「武士」という身分は然程魅力に映らない。だから、こっそり一人話し合いの場を抜け出して来たのである。
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☆辻村春樹☆(プロフ) - ハルさん» 初めまして！コメントありがとうございました。沖田姉弟の場面もこだわって書いている部分が多いので好きになって頂けて嬉しいです。総悟は出番少なかったので徐々に増やしていけたらいいなと思ってます！これからもよろしくお願いします。 (2022年1月6日 23時) (
レス) @page35 id: 4b0a37e42a (このIDを非表示/違反報告)
ハル(プロフ) - 初めまして。沖田が姉上とデェトと言うところが可愛すぎます……。あと文章がめちゃくちゃ好きです。とても引き込まれます。ミツバの印象のシーンなんてもう感動いたしました！これからも応援しています！ (2022年1月6日 22時) (レス) @page14 id: 2a42df9825 (このIDを非表示/違反報告)
☆辻村春樹☆(プロフ) - いくまさん» わ、嬉しい！ありがとうございます！！需要ないよな、と落ち込んでましたが、おかげでこれからも書き続けられます、更新頑張ります！！（嬉し泣きしそうです…） (2021年12月13日 18時) (レス) id: 4b0a37e42a (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - 新作ドタイプです…陰ながら全力で応援させて頂きますね、、！更新頑張って下さい！ (2021年12月13日 17時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：☆辻村春樹☆ | 作成日時：2021年12月12日 20時
