【10.5 / 郷愁】 ページ42
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一週間後、江戸のとある屋敷にて。
「ふぅ、こんなもんかねィ」
沖田は空になったダンボール箱を見下ろし、額から滴り落ちる汗を袖で拭った。
つい先日、沖田達は「真選組」と組織名を改め、見事初任務を完遂した。その働きを認められ、メディアにも取り上げられたことで、正式に幕府直属の警察組織として始動することに。それに伴って、幕府からそれに見合った広い屋敷が与えられたのである。今までこじんまりとした宿所で寝泊まりしていたが、今回の屯所の移転によって、隊長格以上の人間は一人一室使用が可能となった。沖田も一番隊隊長を任されたことで、割り当てられた部屋に荷物を運び込んだ。そうして、ようやく現在その片付けを終えた所である。
「今ちょっといいか?」
ふと聞き慣れた声を耳にし、沖田は後ろを振り向いた。そこには、にっと口の端を吊り上げた近藤が、一枚の封筒をゆらゆらと揺らしながら立っている。
「近藤さん!問題ねェですよ、今片付け終わった所ですから」
「そうか、なら丁度良かった。これオマエ宛ての手紙だ。ミツバさんと津々楽さんの連名で届いてる」
「えっ、姉上とAから?見せて下せェ」
近藤から封筒を受け取り、その場で直ぐ様手紙を取り出した。姉の人柄が表れたような、丸く優しい字で綴られた文を一気に目で追う。そして、大きく目を見開いた。驚愕が近藤に伝わったのか、興味津々な様子で沖田の手元を覗き込んだ。
「総悟、何て書いてあるんだ?」
「姉上が結婚を考えてるみてェで。来月末あたりに、相手の家族に挨拶も兼ねて、上京するそうなんでさぁ。そんときAと一緒に屯所にも顔を出すと」
「そりゃめでたい!良かったなァ!」
バンバン、と近藤が沖田の背を叩く。祝福の意味を込めたそれには、やや力が入り過ぎていたが、その痛みすらも沖田は嬉しかった。幼い頃から自分の世話ばかりだったミツバ。Aが武州に残ったおかげで、ここ数年は女同士楽しく過ごしていたようだ。しかし、大切な姉を託せる男がいるのといないとでは、やはり大きな違いがあるだろう。(決してAを信用していないわけではない)
「……早く、会えるといいなァ」
近い将来、将来を誓い合った男の隣で、幸せそうに微笑むミツバの姿が脳裏に浮かび、思わず頬が緩んだ。
武州から江戸へ。二つの春が訪れようとしている。それが新たな物語の始まりになるとは思いもせず、沖田は、ただ再会を心待ちにしていたのだった。
【続】
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☆辻村春樹☆(プロフ) - ハルさん» 初めまして!コメントありがとうございました。沖田姉弟の場面もこだわって書いている部分が多いので好きになって頂けて嬉しいです。総悟は出番少なかったので徐々に増やしていけたらいいなと思ってます!これからもよろしくお願いします。 (2022年1月6日 23時) (レス) @page35 id: 4b0a37e42a (このIDを非表示/違反報告)
ハル(プロフ) - 初めまして。沖田が姉上とデェトと言うところが可愛すぎます……。あと文章がめちゃくちゃ好きです。とても引き込まれます。ミツバの印象のシーンなんてもう感動いたしました!これからも応援しています! (2022年1月6日 22時) (レス) @page14 id: 2a42df9825 (このIDを非表示/違反報告)
☆辻村春樹☆(プロフ) - いくまさん» わ、嬉しい!ありがとうございます!!需要ないよな、と落ち込んでましたが、おかげでこれからも書き続けられます、更新頑張ります!!(嬉し泣きしそうです…) (2021年12月13日 18時) (レス) id: 4b0a37e42a (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - 新作ドタイプです…陰ながら全力で応援させて頂きますね、、!更新頑張って下さい! (2021年12月13日 17時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:☆辻村春樹☆ | 作成日時:2021年12月12日 20時