気づかぬ内に。/ut ページ1
貴「あ、鬱さん!」
会社の仕事も終わり、帰路につこうとする頃すっかり見慣れてしまった後ろ姿を見つけた。
私がこの会社に来たばかりの頃は教育者として面倒をみてくれた人だ。教えるときは何故か距離を近づけてくるため、鬱さんにはドキドキされっぱなしだった。
「なんや、Aちゃんやったんか。」
貴「……私では駄目でしたか?」
「そういう意味とちゃうで、アンタから話しかけてくれることが珍しいなって。」
今までの事を思い返すと鬱さんから話しかけてくることが多かったように感じた。
最初は話す回数が一日に七回ほどあって多いと感じていたが、それは日常とかして、不思議だと思うようなことは無くなった。
「なぁ、Aちゃん良ければ今から飯でも食いに行かへん?僕が奢ったるから。」
スッと肩に手をまわされ、距離が近くなった。耳元で囁かれた甘い声に私は肯定するほかなかった。
まぁ、明日は会社休みということは鬱さんに今日きかれて教えたことなので、帰りが遅くなっても特に問題はない。
「じゃあ、行きます。」
彼は満足そうに笑うと、私を車の助手席に乗せた。
車内に染みた煙草の匂いが鬱さんを連想させる。彼のスキンシップのおかげか、苦手と思っていた煙草の匂いは今では嫌いでは無くなった。
どちらかと言えば好きという部類に入ってしまうほど。
「Aちゃんは食べたいものとかある?」
流れるような手つきでエンジンをかけ、シートベルトをした鬱さんに思わず見惚れる。
アクセルを踏む前に彼は顔をこちらに近づけて、にこり、と優しげな笑みを浮かべる。
急な距離の近さに胸が高鳴った。彼の瞳を見つめる事も出来ずに視線を反らす。
彼は残念そうに苦笑するとアクセルを踏み込む。
会社にいるときにきいたことがあった。鬱さんは女遊びが激しいクズだと。
確かにこの人は女性というよりも、私をドキドキさせるスキンシップを良くわかっているような気がした。
そんなことを考えていると胸がモヤモヤしてしまう。
貴「う、鬱さんは食べたいものとかあります?なんでもいいですよ!」
緊張でどもってしまったがどうすることも出来ない。
「ん?僕?…………。」
車を運転しながら、考える素振りを見せる。
余程考えているのだろうか、15分程の時間がかかった。や、やっぱり私が言うべきかと思い口を開こうとしたが、鬱さんが言葉を発した。
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作者名:大佐 | 作者ホームページ:
作成日時:2017年2月5日 15時