第72話 ページ42
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しかしハッサク先生の回答は「いいえ」だった。
「そもそも今日は小生の授業見学の日ではないですし。今日の授業見学はキハダ先生でしたか」
「ああ!今日は私とバトル学でしっかり学んでもらったぞ!」
快活に笑うキハダ先生に、チリは「その後の行き先とか知っとります?」と投げかける。
「いや、街の外に出るとは言っていたが、具体的には聞いていないな。どうしたんだ?」
「実はAと連絡がつかへんねん……」
「何!?」
「電話繋がらんくて、さっき家にも行ってみたんやけど留守っぽいんですわ……」
「家にも戻っていないと。それでアカデミーに来たんですね」
「Aは今日夕方以降アカデミーにいる予定は無いはずやから、アカデミーにいる可能性はほぼ無いと思うんやけど、先生方ならなんかわかるかなと」
「ふむ」
「とりあえず職員室で情報収集しよかと思て来てみたものの……有力情報は無し、ってところですわ」
「どこかでスマホロトムを落としてしまった、というのであればまだいいのですがね」
「せやけど最悪、なんや悪いことに巻き込まれてたらと思うと……」
滅多に見ないような焦ったチリを見て、改めてチリの中でいかにAの存在が大きいか実感したハッサク先生は、
「とりあえず、小生はリーグの方にも連絡を入れてみますよ。チリくんはAくんが行きそうなところを当たるのに専念してください」
と協力を申し出る。
「おおきにハッサクさん。よろしゅう頼んますわ!」
そう言ってチリは職員室を急ぎ足で出ていく。
「というわけで、小生は本日は残業は控えさせていただきますですよ」
今までのやり取りを見ていた周りの先生方は、「大丈夫ですよ」と口々に言ってくれる。
良い職場に勤めたな、とありがたく思うハッサク先生であった。
一方、チリはタクシーに飛び乗り、運転手さんに頼んでゆっくりと低空飛行してもらっていた。
「A、どこおるん……!」
祈るようにもう一度スマホロトムで電話をかけると、6コール目の途中でコール音が途切れた。
繋がった証拠だ。
「っ、A!?自分今どこおるん!?」
焦ったようなチリの声に、期待した返答は返ってこなかった。
ただ、聞き慣れた可愛らしい鳴き声が耳に届いている。
「……グレイシアの声や」
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作者名:リトルポム | 作成日時:2023年1月14日 22時