第68話 ページ38
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今やあの時のモノズは立派なサザンドラに成長し、ワタルの言っていた通り強力なアタッカーとして活躍してくれている。
他の子たちよりも輪をかけて注意深く、愛情深く接するように育てたため、凶暴と名高いサザンドラにしては、聞き分けのよい子に育ってくれた。
何ならピクニックの時などは「構って構って!」と言わんばかりに寄ってくるくらいである。
もちろんバトルともなればきょうぼうポケモンの名にふさわしく暴れるので、オンとオフのギャップが激しい子と言えるだろう。
自分では絶対に育てようと思うことは無かった子だろうから、そんな機会を与えてくれたあのワタルという青年には感謝しかない。
思い出に浸っていたら目的地はすぐそこまで来ていたようで、タクシーはゆっくりと降下を始めていた。
数分もすればしっかりと着地し、おじさんが「ほいよ、宝食堂到着!」とドアを開けてくれた。
お金を払ってタクシーを見送ったあと、早速Aはお店に入った。
相変わらず食堂にはお客さんがたくさんいて、大賑わいである。
向かって右半分の座敷席にもお客さんがいるから、特にジム戦を控えているというわけでは無さそうだ。
「すみません、焼きおにぎりお願いします。テイクアウトで」
「はいよー!おや、Aちゃんじゃないか」
「こんにちは!」
「今日はチリちゃんは一緒じゃないのかい?」
「チリ姉さんは今日もお仕事です」
「大変だねえ。……おや、いらっしゃいませー!」
おかみさんに挨拶されたそのお客さんは、「……どうも」と疲れた声で言った。その声はよく聞き慣れたものだ。
振り返ってみると、やっぱり予想通りの人が立っていた。
「アオキさん、こんにちは」
「……ああ、どうも。お疲れ様です」
「アオキさんこそ。……あれ、アオキさんがチャンプルタウンに来たってことは……」
「ええ。ジムから連絡がありましてね。ジムテストを始めた人がいるようです」
アオキはリーグの営業職、ジムリーダー、四天王と三足の草鞋を履いているが、一応本職はサラリーマンであるため、チャンプルタウンに来るのは大抵ジム戦がある時だ。
「急いで書類を片付けてきましたが、最後の方はチリさんにお任せしてきてしまいまして……」
「えっ、そうだったんですか」
「面接が無いタイミングだったからよかったものの……後できちんとお詫びをしなくては」
「あー……意外と根に持ちますもんね、チリ姉さん……」
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作者名:リトルポム | 作成日時:2023年1月14日 22時