第46話 ページ13
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「例えば道ばたに咲いた花をどうして美しいと感じるかを考える。空の青と海の青、その違い。木々の色の移ろいに疑問を持ったり、ボウルタウンの風車の動き、カラフシティの水の冷たさ」
一つ一つ、日常の何気ない、些細なことである。それでもだ。
「考えることで、まわりに存在するありとあらゆることがらをより鮮明に、より深く感じることができます」
自分の感覚と対話し、何をどう感じたかを自分自身が理解してあげること。
「それはきっと勉強に疲れたとき、仕事で大変な目にあったとき……あなたたちの背中をそっとひと押ししてくれるかもしれませんよ」
自分の世界には輝くピースがあちこちに落ちているのだという発見は、何にも代えがたいものである。
Aにはハッサク先生が伝えたいことが何となく理解できたが、1年生(特に子供たち)にはピンとこないようなので、
「……ちょっとむずかしい話なので、わからなくても大丈夫です」
とハッサク先生は付け加えた。
「とにかく美術とは!人生になくていいものですが、あったほうがより楽しいもの!みなさんの生活に少しでもいろどりをそえられたら喜ばしいです」
そこでちょうどチャイムが鳴った。まとめを言い切ったタイミングを合わせられるあたり、流石ベテランである。
しっかりと指導案をもとに授業の進め方を考えてからでないと、こうはいかないだろう。
「次からより実践的に美しさにふれていきましょう!おしまい!」
授業が終わり、美術室を出ていく生徒を見送ったあと、ハッサク先生が「どうでしたか」と尋ねてきた。
「なんというか……いろいろと新鮮でした。私も先生は違えど全く同じ授業を1年生の頃受けたはずなのに、視点が違うだけで全然違うものに感じて……」
「そうですか、それは良かったです。そのような気づきが、きっと成長をもたらしてくれるはずですよ」
「はい!」
「それでは今日の授業に関する小レポートは、次回の美術の授業の時に持ってきてください。授業計画表を渡してありますから、日程はそちらで確認を。確か来週だと思っていましたですよ」
「わかりました」
「では今回の授業見学はこれでおしまいですが、今日はこの後どうするのですか?」
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作者名:リトルポム | 作成日時:2023年1月14日 22時