【あんスタ】花畑と【七種茨】 (ページ1)

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図書館にてページ1

　「七種さんは、読書がお好きになんですか？」
　「……いえ、特段好きというわけではありませんが、まあ、経済経営についての本や論文なんかは参考程度に読んではいますかね」
　「はあ、難しいものをお読みになるんですね。それじゃあ小説とかってあんまり読むことがないんでしょうか」
　「はい。自分、あまり虚構の物語に面白みを見出すことのできない人間でして。いやあ、今までつまらない人生を歩んできたからでしょうな。あなたとは違って自分は元来冷たい人間なようです」
　「そうでしょうか。虚構の物語に面白みを見いだせないのはつまらない人生を歩んできたからではなく、それらの物語以上に刺激のある人生を過ごしてきたからなのではないのでしょうか？」
　「まあ、そう捉えることもできますな」

　知った風な口をきく。
　これ以上彼女と話していてはいらないことまで言ってしまいそうで、もう喋ってくるなと暗に伝わるよう、視線を手元の本に戻す。しかし、察するということができないであるらしい彼女は話のネタを変えることもなく続けた。

　
　「刺激のある人生、というのはそれだけで人間をより味わい深いものにしてくれると思います。人間に対して味わい深い、なんていうのはいささかおかしな表現ではありますが。そして味わい深い人間はきっと冷たい人間ではないと、私は思うのです。ですから七種さんはあまり自分のことをつまらないだとか冷たいだとかおっしゃらないほうがよろしいかと」
　「……貴方は、論理的なのかそうでないのか分からない話し方をしますね」
　「そうですか？あまりそのようなことを言われたことはないですが」
　
　人生と人間について熱心に説いていた彼女は一瞬の間でその面影をなくし、幼げな表情で俺を不思議そうに見つめた。
　
　俺は、この人のことが嫌いだ。卑下する言葉をことごとく肯定し、知った風な口をきくこの人が。きっと俺が想像もすることができないほど綺麗な人生を送ってきたのだろうとわかってしまう、そんなこの人のことが、俺は大嫌いだ。
　
　ちらりと彼女に目をやる。俺との会話に飽きたらしい彼女はいつの間にやら俺たちの後ろにあった本棚の前にいた。どの本を読もうか熟考しているその姿は穢れを知らない花そのものだ。

　＿＿＿＿花だなんて。自分で思っておいて笑える。俺はそんなやつじゃない。

　「……なんでこんなことしてんでしょう」

　俺は、そんなやつじゃないんだ。