はつね ページ8
――……まぁ、ただの幼馴染とは言っても、僕はそれだけとは思っていない。
Aは色気より食い気ではあるが、それでも僕はそんなところも含めて彼女が好きだ。
伝えられたことは一度もないけれど。
「ごちそうさま!」
「はいはい」
「やっぱりこの時期は食べ物が美味しい!」
「お前の場合はいつも美味しい、だろ」
「反論できないのが悔しい」
あははと笑う彼女を見て、あぁやっぱり好きだなと思う。
無邪気な笑顔が好きだ。僕を呼ぶその声が好きだ。何でも美味しそうに食べるところが好きだ。
挙げ出したらきっときりが無い。
いつまで隣にいられるのかは分からないけど、でも、この場所は僕の場所であってほしい。
他の誰にだって譲りたくはないんだ。
でもまだ勇気が出ないから、僕が伝えるまでは此処を誰にもあげないでね。
「ね、ゆりん」
「ん?」
「トリックアンドトリート!」
「え、いや……え?まだハロウィンじゃないんだけど」
「だって当日は友達とハロウィンパーティーするから」
「えー……ちょっと待って」
バッグの中を探ると飴玉があった。
飴玉はAと出かける時はいつも持ち歩いている。急に何かないかとか聞いてくるから。
おかげで事なきを得た。
「はい」
「ありがと、じゃあ悪戯ね」
「は?」
「言ったでしょ、トリックアンドトリートって。
トリックオアトリートとは言ってないよ」
「あ、あぁ……お菓子くれたら悪戯するぞ、だっけ」
「そう!」
「そんなのいつ覚えたの?」
「部活の先輩が教えてくれた」
「部活中に何してるんだよ」
「帰る時だよ。
それよりいい?悪戯するよ」
「もー……はいはい、どうぞ」
とは言っても、何をされるか分からない。
どうしていれば良いのか分からずにいると、目を瞑ってほしいと頼まれた。
……期待、するからやめてほしいんだけど。
「ちょっと屈んで」
「こう?」
「うん、ちょっと待っててね」
「腰痛いから早くして」
「我慢して!」
前髪を少しの間触られた後、もういいよと声がかかった。
……まあ、だよね。期待するだけ無駄だよね。
前髪を触ると、どうやらピンをつけられたみたいだ。
……男にピン止めとは……。
「ちょっと、何これ」
「前髪長いなーって思って」
「それはどうも、外していい?」
「だめ、それあげるから今日は付けてて」
「えー……」
「ね、いいでしょ、私とお揃いなの!」
……Aとお揃いなら、まあ、いいかな。
そう思ってしまう僕は、やっぱり単純みたいだ。
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瑠璃?(プロフ) - 更新いつも楽しみにしてます。 とても素敵な作品ばかりで尊敬します……! 春音さんのお話に出てきた先輩は弟の姉さんでしょうか? 合ってたらお友達d)) ……これから更新されるお話も楽しみにしてます! (2016年10月29日 9時) (レス) id: 72272aaac8 (このIDを非表示/違反報告)
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