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今日だけ私はお姫様になれる。
○
金曜日、午後6時。
チャイムが王子様の迎えを知らせる。
私はリュックを背負って早足で玄関へ向かった。
机上に置かれた『焦凍くんと楽しんでおいで！』という、母の置き手紙が少し揺れて、床に落ちる。
電気を消したら部屋は暗くなって、窓の外から月光が射し込む。
扉を開けたらそこには先週と変わらない幼馴染みがいた。
「……A、両親は」
「お父さんは出張、お母さんは女子会だって。
お母さんに伝えてくれたんでしょ？大丈夫だよ」
「…ああ」
私の両親に直接一言伝えたかったのだろうが、生憎今日は留守。
そして母は焦凍くんを信用しきっているのと、基本は放任主義だ。そんな顔しなくていいのに。
「8時には帰すから」
「うん」
「お手をどうぞ」
「ありがとう」
手袋越しに手を繋ぐ。
昔は何とも思わなかったのに、ひと回りもふた回りも大きくなった彼の手に包まれると、柄にもなくドキドキしてしまう。
……手袋越しでよかった。緊張が伝わってしまいそうだ。
不思議なことに、今までで一番星空が美しい夜だった。
・
「どこに行くの？」
電車に揺られながら私は聞いた。
焦凍くんは無言で人差し指を唇に近づけて、「内緒」のポーズをした。
そんな些細な仕草も様になってしまう彼が憎い。
「お楽しみってこと？」
「ああ」
「そっか」
「……寒くないか？」
「ぜーんぜん。すごくあったかいよ」
むしろ君が隣にいるせいで、少し熱いくらい。
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作者名：- | 作成日時：2017年12月9日 6時
