23. ページ24
.
「…くん」
「…しくん」
「智くん」
.
名前を呼ばれた気がした。
うっすら入ってくる光。
誰かが俺を上から見てる。
.
「…智くんってば」
智「…」
思考が止まった。
声が出ない。
「…私のこと忘れちゃった？」
会いたくてたまらなかった女が困った顔で俺を見下ろしてる。
「何か言ってよ」
上半身を起こす。
若干寒い。
腰辺りに何かがチクチクと刺さる。
ここ、どこだ。
何が起こってる。
汐音は…。
.
「智くん」
智「…」
呼ばれた名前。
声も姿もあいつ。
1年ぶりに顔を見た。
黙って手を伸ばす。
少し震える。
「黒目、めっちゃ揺れてる」
触れた。
でも温かくない。
智「…生きてんの？」
「ううん」
智「なら何で」
「ここは智くんの夢の中だよ」
風がそよぐ。
肌寒い。
川が流れてる。
芝生が揺れる。
「智くんに言いたいことがあるから出てきたの」
Aが立ち上がる。
手を掴まれて俺も立たされた。
やっぱり軽い。
俺の方に引っ張られて「おっとっと」となる。
川沿いの芝生上を歩く。
1年ぶりに肩を並べて。
.
智「何、言いたいこと」
「いっぱいあるんだけど」
何から喋ろうか、うーんと悩む。
出てくるなら整理してから来いよと思いつつ、黙ってAが話し始めるのを待った。
.
「浮気、しようとしたでしょ」
智「…」
「カズくんとも喧嘩しちゃってさ」
智「マジで見てたのかよ」
「見てた。全部知ってる」
智「…未遂じゃん？」
「コンビニでえっちな本見てた」
智「お前が生きてたら見てないし」
「私のせいにするんだ」
智「…お前のせいだろ。全部全部」
「反省してない」
智「…勝手に死んで。汐音残して子育てを俺一人に投げて。ふざけんなっつーの」
「それは…ゴメン」
風がビューっと吹く。
川上から枯葉が数枚流れてきた。
「…智くんが本当にパパをやってくれるか見たかったから」
智「…だからって」
死ぬって。
アホか。
久しぶりに会えたのに不満しかぶつけてない。
本当はすげぇ嬉しいのに。
会いたかった。
会いたかったよ。
「智く…、」
ああ、抱き心地はやっぱり…。
風船を抱きしめている感覚だ。
智「俺頑張ってたっしょ」
「…うん」
俺の夢なら俺の思い通りになれよ。
ちゃんと抱きしめさせてくれよ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 348人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
チェリー(プロフ) - 汐音ちゃんがどんな風に育つのかがとっても気になります！この作品はお山のてっぺんから見させていただいていて、他にも、ふたまたさとしなども、本当に大好きな作品です！！また、ちおさんの作品まってます！長編作、お疲れさまでございました！！ (2018年3月10日 10時) (
レス) id: a0fb27e534 (このIDを非表示/違反報告)
チェリー(プロフ) - 完結おめでとうございます！！んもーーーーー、本当に！良かった！！の一言です笑 主人公が亡くなってしまってからの智くんの気持ちが痛いほど伝わる書き方、本当に素晴らしいなと思いました！夢で良かった。本当に。 (2018年3月10日 10時) (レス) id: a0fb27e534 (このIDを非表示/違反報告)
ちお(プロフ) - うぴさん» 夢でした！夢の中で得た経験を現実世界でも発揮してくれると思います(^^) (2018年3月9日 16時) (レス) id: 06dd6ecca4 (このIDを非表示/違反報告)
ちお(プロフ) - ちはるさん» ファンだなんて…嬉しいお言葉をありがとうございます！今回の更新で完結となりました。最後まで読んで頂けると幸いです。 (2018年3月9日 16時) (レス) id: 06dd6ecca4 (このIDを非表示/違反報告)
ちお(プロフ) - すりおろし梨。さん» 智くん自身、未だに現実と夢の区別がつかなくなることもあるみたいですが…、夢というオチでした(^^) (2018年3月9日 16時) (レス) id: 06dd6ecca4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ちお
| 作成日時：2017年12月30日 17時
