#09 ページ13
「これは…その時、私に羽織らせた上着です。見覚えはありませんか?」
その服には見覚えがあった。
これを着ていた当時の俺の一張羅だったから余計に覚えている。
ということは、コイツは、あの時助けたガキなのか。
どうりでこの顔を見たことがあると思ったわけだ。
「ある。…当時、俺が来ていたものだ」
「……よかった。やはり貴方でしたか」
ジゼルは、俺にジャケットを手渡すと、窓際の机に歩み寄った。そして、自分の机の引き出しから、何故かはさみを取り出して、俺を振り返る。
「……結構、きれいに保てているでしょう?
もう、着れないでしょうが、お返しします」
ジゼルの言う通り、袖口のほつれ、汚れ、あるはずの経年劣化などはほとんど感じられない程だった。下手したら俺がこれを着ていた当時よりきれいだと思う。
「お前が俺に渡したいモンってのはこれだけか?
……チッ、こんなくだらないことで俺をここまで歩かせやがって」
「すみません。それだけです。
……ですが、1つ聞かせていただきたいことがあるんです」
「なんだ」
「どうして、私を助けたのですか?
……あの状態、私が考えることなど想像に難くないだろうに」
後半部分敬語を使え。とキレそうになって、ジゼルを見ると、苦しそうに俯いていた。
きっとコイツは、あの時どうして見捨てなかったのかと聞きたいんだろう。
「……私の考えてることを察せたか?」
「ああ。わかっている。だがな、俺は、俺の翌朝の寝覚めを最悪なものしたくなかった。それだけだ」
「私は、あの時死なせてほしかった。……結局、私は…」
「………」
苦しそうに呻く姿は、まるで、駄々をこねる子供のようで、続く言葉を待っている間、アイツは何度も俺を責めようと口を開いては取りやめる動作をつづける。
そして、最後にはさみを取り落とし、ジゼルの口から洩れたのは、叱責の言葉などではなかった。
「……ありがとう…ございました…」
「……これを返したかったのは、返すついでに俺を責めるためだろう。いいのか?
全く、何年持ち続けたんだ、こんな服。執念深い野郎だな」
「……私、物持ちはいいんです。立体起動装置はよく故障させますが。
……責めません。死にたいならいつでも死ねました。私に、自ら死ぬ度胸も勇気もなかっただけです」
「わかってんじゃねぇか。俺はもう行く。
……ガキはさっさと寝ろ」
「……はい。すみませんでした」
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ああ - 名前が反映されません (2023年4月4日 3時) (レス) id: 8d7dc1031f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:clear | 作成日時:2017年5月5日 21時