178話 不二周助の欲心9 ページ42
しかし跡部は攻撃の手を緩めない。
跡「手始めに、その弓巻きか」
貴「その件はもうキャンセルに決まってるじゃないですか。なんで行くと思ってるんですか」
跡「アーン？ 先に言い出したのはてめえだろうが」
貴「そりゃそうですが……そんな口約束でムキにならんでも」
跡「なる」
跡部の軽口が、途端に真剣なものになる。
跡「お前、わかってるって言ったよな」
ジャリ、と地面を踏み込む音がする。
跡「俺様の本気を見せてやるよ。精々足掻くんだな」
貴「それは最早悪役のセリフなんだよなあ」
跡部の宣戦布告とも取れる言葉に、Aは少し呆れた口調で呟いた。
貴「じゃあ、私も改めて」
しかし続いた声は、先程の跡部同様、真っ直ぐに相手を見ていた。
貴「私は不二先輩が好きです。だから跡部さんの気持ちには答えられません。2人で出かけるなんて、絶対出来ません」
淡々とした口調の中に、一途な思いが真っ直ぐに伝わってくる気がする。面と向かって言われている訳では無いのに、僕に対して、僕を思っての言葉に、胸の中に、暖かい気持ちが広がる。
気がつくと口元が緩みきっていて、自分の頬を抑えた。
跡「フッ……」
笑みが同調するように、跡部も小さく笑う。
跡「燃えてきたぜ。諦める気が完全に失せた」
跡部の言葉に、僕は思わず吹き出しそうになるのを押えた。
貴「あれ？ まさかの逆効果？ ドMか？」
Aにとっては諦めてもらうために捻り出した言葉だったのだろう。しかし返ってきたのは、より気概を示す言葉で、Aの声音は見るからに困惑していた。
そんなAを見て、跡部が楽しそうに高笑いをする。
貴「タイブレーク好きだしやっぱドMか……」
熱風に乗って、Aの呆れ返ったつぶやきが聞こえ、堪えきれずに小さく吹き出した。
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作者名：葉奈 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時：2022年8月26日 17時
