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20.訪問者 ページ20

誰もいない、広いだけの寒い家。
誰もやってこない、着飾られた部屋。
親の言うことしか聞かない無表情の家政婦さんたち。
この家に存在するもの全てが、わたしを孤独に思わせるから。だから、この家は昔から嫌いだった。

それでも音楽だけは、家に存在するものの中では唯一好きだったのだけれど、それもいつの間にか疎ましく思うようになってしまっていた。

認めてほしいなんて感情で音楽はやっていなかったけど、誰にも認められない環境で続けていくほどわたしは強くない。それどころか、作曲をするほど憎まれるようになっていったことに、そして、大して認められていないのに親の力によって高くなっていく自分の地位に、わたしは成長するにつれて戸惑うようになっていったのだ。

思わず溜息をつく。一人でいると、どうしても後ろ向きになってしまう。

あの日から、お父さんともお母さんとも会っていない。どうやら家には居るらしいが、娘の様子を見には一度も来ていない。昔から彼らはそうだから、だろうなと思う。

ーーきっと、音楽さえ辞めなければ、娘が何したって、どうなったって、どうでもいいのだ。

やっぱり音楽なんて嫌いだ。音楽があったせいで、お父さんたちはわたしを見なくなった。誰も、音楽を通してじゃないとわたしを見てくれない。

苦しい、苦しい。

ここ数日で泣きすぎたせいで、目は開けるのも困難なくらい腫れていて、視界は狭いし、ついでに鼻も息がしづらい。けれども、長年の希望が絶たれ、心までも決壊されたおかげで、わたしの涙は枯れることなく、少し考え事をしただけでそれは溢れてくる。

思わず布団をかぶって、壁際を向き、うずくまる。そうしたら、ちょうどその時に部屋のドアを激しく叩く音が聞こえた。家政婦がご飯を運んできたのだ。わたしはいつものように布団にくるまったまま、ずるずるとドアの前まで歩いていき、ドアノブに手をかけた。開けた瞬間、目下に誰かの足が見えて、驚く。

「......えっ」
「いつまで風邪引いてんだバーカ」

その人の名前を呼ぶ間もなく、ドアは閉まり、気付くとわたしは布団ごと抱き締められていた。びっくりしすぎて腰が抜けたわたしに合わせて、二人で床に座り込む。

「く、来栖くん......」

名前を呼ぶと、素直に顔を上げた来栖くん。そして、至近距離でわたしを見つめてから、ほっとしたような、少し意地悪そうな顔で微笑んだ。

21.仲直りをしよう→←19.縛るもの



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(プロフ) - ラビットハッチさん» コメントありがとうございます! 本当ですか! とっても嬉しいです〜! こちらこそ、ありがとうございます!! 励みになります! (2016年12月19日 3時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
ラビットハッチ(プロフ) - わー!ずっと待ってた甲斐がありました!すごい環さんの作風が大好きで、更新されるのを今か今かと待ってました!更新ありがとうございます! (2016年12月19日 1時) (レス) id: 7cb82700e8 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 翔くん大好き!!さん» コメントありがとうございます^ ^ 励みになります! 更新頑張りますね!! (2015年7月25日 10時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
翔くん大好き!! - 面白くてこの作品大好きです!!更新頑張ってください!! (2015年7月25日 9時) (レス) id: dca90fa2b6 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 夢さん» コメントありがとうございます^ ^ そういっていただけると、すごく嬉しいです〜!! 更新頑張ります! (2015年7月14日 22時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2015年3月10日 0時

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