【うたプリ】恋は難解です

１１.笑顔 ページ11

「ここって、強弱つけて歌ったほうがいい？」
「うん、そうしたほうがいいかも」
「そっか。サンキューな！」

今日は久しぶりの練習だ。

楽譜から顔を上げると、来栖くんと目が合う。にっこりと笑うその笑顔に、どんな顔をすればいいのかわからなくて、ぎこちなく目を逸らした。こういうときって、どういう反応をすればいいんだっけ？ ...わからない。

内心戸惑いながら、目の前にある譜面を凝視していると、ふいに来栖くんがあっと声を上げた。驚いて顔を上げる。ばっちり目が合った。そして、間髪入れずに来栖くんが楽しそうに口を開く。

「このあと、音也と七海もここに練習に来るらしいんだけど、そのまま４人で一緒に練習するか？」
「うん、する」
「ん。じゃあ、それまでに、ここんところ完璧にしとこうぜ！」

久しぶりに見たせいか、その笑顔が眩しく思える。直視できなくて、わたしは下を向いたまま胸のあたりをそっと押さえてみた。やっぱり、心臓が、すごくドキドキしてる。

「......どうかしたか、A？」
「えっ？ う、ううん？ そ、そうだね。完璧にして、春歌ちゃんたちをびっくりさせよう」
「おう！」

ああ、どうしよう。やっぱり、好きだ。声を聞いているだけなのに、心臓の奥のあたりがキューって苦しい。

ーー好きって本人に言ったら、来栖くんはどんな顔をするのだろうか。

頭に浮かんだ疑問に、思わずハッとする。そして、心の中で小さく溜息をついた。

...いや、告白するなんて以ての外だ。こうしてわたしと話しているだけでも、来栖くんに迷惑をかけてしまっているのに。

考え込んでいると、ふいに静かになった室内にそっと顔を上げれば、口許をきゅっと結んで黙っている来栖くんに、思わず首を傾げる。

「...来栖くーーー...」
「なんで」

そう言って、わたしの言葉を遮ると、眉を八の字にした来栖くんが顔を上げる。

「...らわねーの？」
「え？」

ぼそっと呟かれた言葉が聞き取れなくて、思わず聞き返せば、何故かむっとしたように口を膨らませた来栖くんと目が合った。

「...何か言った？」
「言ってねーよ、バカ」

そして、手を伸ばすと、わたしの頬をギュッとつまむ。口角が上がって、なんだか笑ってるみたいだ。なのに、変な顔になっているわたしを、来栖くんは笑うわけでもなく、すごく悲しそうな顔でじっと見ていた。

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