2 .望まぬ再会 ページ2
「お前みたいに努力しないで夢を叶えるやつなんか大嫌いだ、A。見損なったぜ!」
ーーー今でも鮮明に覚えている。
わたしにそう言い放ったときの翔くんの泣きそうな顔、怒りに満ちた低い声。部屋から飛び出していくときの大きな足音。毎回家を訪ねても「いないよ」と言っては玄関のドアを閉めた薫くんの無表情な顔。
***
輝かしい舞台に立つ人たちには、幾つかの種類の人間がいる。
生まれながらして飛び抜けた才能を持っている人、並ならぬ努力で勝ち上がってきた人。そして、"大スターの子ども"というブランドを売りにデビューさせられた人。
ちょうど三番目の種類に当てはまるわたしは、十二歳のときに親の所属する事務所の社長から強く押されて、作曲家としてデビューした。趣味で描いていたわたしの曲を偶然目にした社長が感動して、スカウトしてきたと親から聞いているけどそれは嘘だと思う。社長はブランドだけが目当てだったに違いない。
「あの高坂さんの娘だって」
「まさに親の七光りね。この曲だって、本人が作曲してるかどうかわかったもんじゃない」
「十二歳でこんな曲、描けるわけないもの」
だって、どんどんエスカレートしていく陰湿な嫌がらせや悪口に、社長も家族も友達も誰も助けてくれなかった。あの人たちは、大人からの嫉妬や憎悪の混じった大きな黒い渦に巻き込まれて苦しむ小さなわたしを見捨てたのだ。
「YOUは来月にある早乙女学園の入学試験を受けて実力で合格してくだサーイ」
大好きだった音楽は大嫌いになった。音楽をやめたいとお願いしたわたしに、そう言って無理矢理試験を受けさせた社長は、合格してから卒業まで無事に成し遂げて、それでも考えが変わらなかったら辞めさせてくれると約束してくれた。
そして、合格したわたしは、社長の言うとおり名字を変えて、ここで新たらしい人生を送るために頑張るつもりだった...のに。
「ーーーなんでここにいんだよ」
同じクラスにいたのはあの日以来ずっと会っていなかった翔くんで。その憎悪剥き出しの表情に、サーッと血の気が引いていくのを感じた。
「オレはあの日お前に言ったこと、撤回する気はねぇからな」
そのまま、乱暴なしぐさで隣りの席に座った翔くんを視界の隅に捉えて、思わず唇を噛む。
ーーー翔くん。届かないなら言えるだろうか。
かつては同じ夢に向かって一緒に頑張っていた幼馴染みで、今はもう話すことのできない君に。"好きです"と届かないなら言えるだろうか。
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環(プロフ) - ラビットハッチさん» コメントありがとうございます! 本当ですか! とっても嬉しいです〜! こちらこそ、ありがとうございます!! 励みになります! (2016年12月19日 3時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
ラビットハッチ(プロフ) - わー!ずっと待ってた甲斐がありました!すごい環さんの作風が大好きで、更新されるのを今か今かと待ってました!更新ありがとうございます! (2016年12月19日 1時) (レス) id: 7cb82700e8 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 翔くん大好き!!さん» コメントありがとうございます^ ^ 励みになります! 更新頑張りますね!! (2015年7月25日 10時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
翔くん大好き!! - 面白くてこの作品大好きです!!更新頑張ってください!! (2015年7月25日 9時) (レス) id: dca90fa2b6 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 夢さん» コメントありがとうございます^ ^ そういっていただけると、すごく嬉しいです〜!! 更新頑張ります! (2015年7月14日 22時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:環 | 作成日時:2015年3月10日 0時