38.好き ページ38
「好きだよ」
耳元で囁かれた言葉。勢い良く顔を上げると、泣きそうな顔をした黄瀬くんと目が合った。そして、思考を停止しているわたしに向かって、さらに畳み掛けるように口を開く。
「青峰っちからクッキーのこと聞いたッス」
「......え、いやあれは...嘘で、」
「ーーーじゃあ、なんで泣いてるの?」
その言葉に咄嗟に顔を逸らす。すると、両肩を掴まれて、一気に顔を近付けられた。
「ねえ、Aっち。オレAっちのことが好き。ずっと前から好きなんスよ。だから、」
「き、黄瀬くん?」
驚いて至近距離で顔を見上げると、切れ長の金色の瞳から綺麗な雫がポタリと一滴落ちた。
「だから、オレにあのクッキーを"捨てて"だなんて、そんな悲しいこと言わないでよ...」
そう言いながら、鼻をすする黄瀬くんの泣き顔を凝視する。...何だ、何が起こってるんだ。黄瀬くんがわたしのことを好き? ほんとに?
黙っているのをどう受け取ったのか、不安そうに眉を顰めた黄瀬くんが微かに震えた声でわたしの名前を呼ぶ。そして、手の甲で自分の涙を拭うと、無意識なのか、上目遣いでこちらを見つめてきた。
「...青峰っちが言ってたことが本当なら、Aっちの言葉で聞かせて」
黄瀬くんが言った言葉に思わず息を呑む。そんなこと言ったら、心臓がドキドキし過ぎて壊れてしまいそうだ。なのに、黄瀬くんは催促するように、わたしの手首を掴んでいた手にぎゅっと力を込めてくる。
「わたし、その...」
思い切って声に出せば、予想以上に自分の声も震えていて。
ーーーこわい。
その感情だけが、どっと押し寄せてくる。わたしのことを好きになってくれる人なんて、本当にいるのだろうか。想いを伝えた瞬間、今までの人たちみたいに利用しようとしてこないだろうか。
黄瀬くんはそんな人じゃないとわかっていても、こわくなってしまう。
そんな気持ちをわかってか、耳に届いた、大丈夫という声に勇気をもらって、澄んだ金色の瞳を見返す。そして、ゆっくりと口を開いた。
「黄瀬くんのことが、好き」
好き、と言い終わらないうちに伸びてきた手に、まるで壊れものを扱うかのように優しく引き寄せられる。そして、そっと唇を奪われた。
「...うん、オレも好き。ありがとう、Aっち」
そして、耳元で囁かれた言葉に、今度こそわたしは大きな声で泣きだした。
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環(プロフ) - たくっちさん» コメントありがとうございます〜!! そう言っていただけると嬉しいです! ほんとにありがとうございます!! (2015年12月29日 22時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
たくっち - めっちゃ良い話じゃないですか。感動しました!これからも感動するような作品よろしくお願いします。応援してます! (2015年12月27日 18時) (レス) id: 14821b434b (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 朱いメダカ@ペンタブ禁止令さん» コメントありがとうございます^ ^ そういっていただけると、すごく嬉しいです〜!! ありがとうございます! (2015年5月12日 0時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
朱いメダカ@ペンタブ禁止令(プロフ) - 今日読み始めて一気に最後まで読んでしまいました!!凄くキュンキュンして泣けて…凄く面白かったです!! (2015年5月11日 23時) (レス) id: edbb06b586 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - にょんさん» コメントありがとうございます^ ^ ほんとですか!? すっごく嬉しいです、ありがとうございます!! (2015年5月7日 23時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:環 | 作成日時:2015年2月15日 11時