37.親友 ページ37
公園に響き渡った声。視界の隅に捉えた黄色。見慣れた制服。どんどん近付いてくる人物に、気付いたときにはもう逃げられないように腕を掴まれていた。
「......Aっち、ごめん。話があるんスけど」
すぐ近くから聞こえてきた言葉になんて反応すればいいのかわからなくて、口を閉じたまま下を向いていれば、ふいに立ち上がったテツくんが黄瀬くん、と名前を呼んだのがはっきりと聞こえた。何事かと思い、ゆっくりと顔を上げると、やけに真剣な顔をしたテツくんが目に入る。
「黄瀬くん」
テツくんがもう一度名前を呼ぶ。黄瀬くんは不安そうな顔をして、自分の名前を呼んだ親友をじっと見つめている。そして、暫くの沈黙のあと、テツくんは困ったように小さく微笑んだ。
「ボクはAさんのために、大人しくキミに譲ります。ですが、その代わりに一つキミにお願いがあります」
「...お願い?」
テツくんが大きく頷き、真っ直ぐな瞳で黄瀬くんを見上げる。
「はい。この選択をしたことをボクに後悔させないでください、黄瀬くん」
「......黒子っち」
「今度泣かせたら、本当に奪っちゃいますから」
もう一度微笑むと、わたしの頭を撫でて、公園から出て行ってしまったテツくん。そして、取り残されたわたしと黄瀬くんの間にすごく気まずい雰囲気が流れる。...おい、なんだこれ。聞いてないぞ、テツくん。
チラリと黄瀬くんの手元を見る。何故か、何故かあのクッキーの入ったわたしの紙袋とお姉ちゃんがあげていた紙袋を二つ手に持っていた。きっと、大ちゃんが何か言ったんだろう。詳しいことは推測でしかわからないが、この状況と黄瀬くんの表情から、これだけはわかる。
ーーーわたし、絶対フラれる。
いま、このメンタルでフラれたらわたしは立ち直れる自信がない。わたしは、タイミングを見計らって立ち上がると、急いで駆け出した...つもりだったのに。
「逃げんな!!」
焦ったような声と同時に伸びてきた手がわたしの手首を強い力で掴んだ。そして、そのまま引き寄せられる。
「ーーー!?」
どこかで鞄がドサッと落ちる音がした。頭を押し付けられたところから伝わってくる黄瀬くんの心臓の音に静かに目を見開く。
そして、次の瞬間。耳に飛び込んできた言葉にわたしの思考は停止した。
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環(プロフ) - たくっちさん» コメントありがとうございます〜!! そう言っていただけると嬉しいです! ほんとにありがとうございます!! (2015年12月29日 22時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
たくっち - めっちゃ良い話じゃないですか。感動しました!これからも感動するような作品よろしくお願いします。応援してます! (2015年12月27日 18時) (レス) id: 14821b434b (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 朱いメダカ@ペンタブ禁止令さん» コメントありがとうございます^ ^ そういっていただけると、すごく嬉しいです〜!! ありがとうございます! (2015年5月12日 0時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
朱いメダカ@ペンタブ禁止令(プロフ) - 今日読み始めて一気に最後まで読んでしまいました!!凄くキュンキュンして泣けて…凄く面白かったです!! (2015年5月11日 23時) (レス) id: edbb06b586 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - にょんさん» コメントありがとうございます^ ^ ほんとですか!? すっごく嬉しいです、ありがとうございます!! (2015年5月7日 23時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:環 | 作成日時:2015年2月15日 11時