【黒バス】桃井さつきの妹じゃありません！

２７.遺伝 ページ27

チョコレートケーキ、ブラウニー、生チョコ、トリュフ、クランチチョコ、ガトーショコラ、チョコレートクッキー...

「うーん...わからない」

レシピの雑誌を広げながら、その料理のバリエーションの多さに思わず眉を顰める。なんでこんなにレシピが多いんだろう。これではどれが良いのか選べないじゃないか。それに、わたしにはここに書いてあるメニューが複雑に思えてならない。

「えーっと...なにこれ。適量？ん、テキトーでいいってこと？うわぁ雑だなこのレシピ」

リビングのテーブルに広げたレシピを読みながらブツブツ言っていると、ふいに後ろに感じた気配にさりげなく顔を上げれば、予想通りの人物に自然と口許が緩んだ。

「あ、大ちゃんじゃないですか」
「よぉ、なに見てんだよ」

そう言って、興味深そうにレシピを覗き込んできた大ちゃん。そして、わたしが「今年は黄瀬くんにあげる」と満面の笑みで言えば、たちまちその青い瞳をまん丸くさせた。

...ふん、なんだかんだいって、大ちゃんだって毎年恒例のわたしからのチョコを楽しみしてるに違いない。しょうがないな、黄瀬くんへのチョコのついでに作って...

「ーーーげっ！お前、黄瀬に作んのかよ」
「えっ？ダメなの？」

予想外の反応にキョトンとしているわたしに、さらに首を横に振る大ちゃんが必死の形相で口を開く。その表情に、どうにかしてわたしを止めたいという明確な意思が感じられた。

「......やめとけ」
「な、ななんで！？わたし、夕飯とか手伝ってたけど...え、もしかして料理下手だった？」
「いや、ご飯は普通だ。けど、お菓子となると話は別なんだよ」
「べ、別？それって、どういう...」
「ーーーとにかく、やめとけ」

珍しく丁寧な仕草でレシピ本を閉じると、動揺した様子でリビングから出て行ったその大きな背中を見送る。

もしかして。いや、一つの可能性に過ぎないけれども。いま思えば、毎年大ちゃんがバレンタインの日にまるで気を失ったかのように数時間ぐったりとしていたのは、わたしのチョコを食べたせいなのだろうか。となると、わたしってお菓子だけに限れば、お姉ちゃん並みに料理やばいのかも。

「うー...大ちゃんごめん。今年は違うのを作るよ」

大ちゃんだけでなく、森山先輩や黄瀬くんにまで迷惑をかけるところだった。

勇気を振り絞って忠告してくれた大ちゃんに感謝しながら、わたしはお菓子作りを特訓してバレンタインの日を迎えることを心に誓った。

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