25.本命チョコ ページ25
部活帰り。いつものように一人で歩いていると、ふいに鼻孔を掠めた甘い香りに思わず立ち止まる。そして、横をちらりと見れば、ガラスケースに入ったチョコレートがやけに可愛らしく輝いて見えた。そういえば、ここのショッピング街一面がなんだか甘ったるい雰囲気な気がする。
「ねぇ、ゆーちゃんは彼氏にチョコあげる?」
「あげるに決まってんじゃん!で、あんたは告んの?あの...なんだっけ...なんとか崎くん」
「城崎くん!もー、忘れないでよ。告るけどさー...」
耳に入ってくる会話にもうすぐバレンタインかぁ、なんて他人事のように考えていると、視界の隅に移った黄色いリボンでラッピングされたチョコレートの箱。その見慣れた色にふとある人物の顔が思い浮かんで心臓が大きく跳ね上がった。
「わたしも黄瀬くんにあげようかなぁ...本命チョコ」
ポツリと呟いた言葉は誰にも聞こえることはなく。今日はとりあえず帰ろうと目線を上げたときに見てしまった、ガラスに映る自分の甘ったるい表情にわたしは思わず顔を顰めた。
***
「Aちゃんは俺にチョコくれるよな」
「...森山先輩、それ何回目ですか。それに、なんでここにいるんですか?」
「可愛い後輩の様子見に来たに決まってるだろ。で、俺にチョコくれるよな、バレンタイン」
渾身のキメ顔しながら、そう言って迫ってくる森山先輩。マフラーに顔を半分うずめながら、わたしよりずっと身長高いくせに、やや上目遣いで見上げてくるのはわざとなんだろうか。
「あげます。部員全員にはマネージャーたちから心を込めて作る予定なので」
「え、三年生も?」
「はい」
「よしっ!...じゃなくてだな、俺はお前個人から欲しいんだよ。えっと、その...」
そう言うと、あたりをキョロキョロし始めた森山先輩を凝視する。すると、今度は内緒話をするかのように口に片手を当てると顔を近づけて「本命チョコ」と囁いてきた。
驚いて顔を上げると、さっきとは違うキメ顔で微笑みかけてきた森山先輩。どうやらお得意のキメ顔にはかなりのバリエーションがあるらしい。
「...先輩はわたしに本命チョコを強要するんですか」
「します」
さらりと言ったわたしの言葉にも、さらに食い下がってくる先輩に「本命チョコじゃないですけど、個別にチョコあげます」とだけ言って、わたしは急いでその場を後にした。
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環(プロフ) - たくっちさん» コメントありがとうございます〜!! そう言っていただけると嬉しいです! ほんとにありがとうございます!! (2015年12月29日 22時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
たくっち - めっちゃ良い話じゃないですか。感動しました!これからも感動するような作品よろしくお願いします。応援してます! (2015年12月27日 18時) (レス) id: 14821b434b (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 朱いメダカ@ペンタブ禁止令さん» コメントありがとうございます^ ^ そういっていただけると、すごく嬉しいです〜!! ありがとうございます! (2015年5月12日 0時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
朱いメダカ@ペンタブ禁止令(プロフ) - 今日読み始めて一気に最後まで読んでしまいました!!凄くキュンキュンして泣けて…凄く面白かったです!! (2015年5月11日 23時) (レス) id: edbb06b586 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - にょんさん» コメントありがとうございます^ ^ ほんとですか!? すっごく嬉しいです、ありがとうございます!! (2015年5月7日 23時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:環 | 作成日時:2015年2月15日 11時