一本の傘と抱く想い ページ38
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「 あの日から俺、雨が好きになったんですよね 」
好意を抱く切っ掛けとなった話を語り終えた彼は、そう最後を締め括って腕を組む。
普段しずくちゃんの愛を叫んでいる彼と、しずくちゃんの可愛さに卒倒している彼しか目にしていないせいか、こうも落ち着いたオーラを纏って目を伏せられると反応に困る。
伊沢は真剣な話をするときは絶対にふざけない。
たとえ普段が超が付くほどウザくても、しっかりと切り換えは出来るやつだ。
というか、そうでなければ俺は彼に着いていこうとは思っていない。
「 ほんとに好きなんだね、伊沢 」
「 だから前からそう言ってるじゃないすか 」
知ってるよ。
俺らは多分本人以上にしずくちゃんに対する彼の愛を耳にしているし、尊さという名のカウンターを喰らってノックアウトしている彼を回収するのは俺らだし、もううざいくらいに彼の愛情は感じ取っている。
それに、第三者の俺から言わせてもらうと、しずくちゃんの方も伊沢に悪い印象は抱いていないと思う。
間近で愛を叫ばれて鬱陶しそうにはしているが、だから本気で嫌がっているかと言われると、それは違う。
ただ。
「 でもあの子、ちょっとだけ恋愛に臆病だよね 」
「 え?どの辺が? 」
「 もしかして気づいてないの? 」
俺はてっきり、それに気づいているからあんなにも猛烈ウザウザアピールをしているのかと思っていたのだが、どうやらそうではなかったらしい。
俺自身も「 絶対にこう! 」と言える根拠は無いのだが、そう感じる節は結構ある。
最初は俺もあまり彼女を知らなかったから、立場の違いに臆しているのかと思っていた。
けれどここまで来たら、立場どうこうより、伊沢自身の告白について考えるようになるものだろう。
だけど彼女は絶対どこかで一線を引いている。
立場の違いという線をまず引いて、その先にある、自分の本心に行き着かせないように。
「 まぁ気づいてないなら良いよ 」
「 ちょっと待って。そこで止めるのは狡い 」
「 俺も助言してあげたいところだけど、多分これは、伊沢が自分で気づかなきゃダメだよ 」
もし本当に、伊沢がしずくちゃんのことを好きだって言うなら。
なんて、こんな言い方しちゃう俺は、ちょっと意地悪な相談役かもね。
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月3日 19時