Tre ページ5
なのに何故知ってるの、と目の前にゆったりと座る彼を睨みつける。
杠達には器用貧乏で通っているし、それで私も通しているはずだ。
しかしそんな視線も何処吹く風。司くんは熟考するようにゆっくりと目を瞑り、やがて口を開いた。
「北東西南」
「!」
「君は……うん、この名前を知っているね」
従姉妹の名前。
小さい頃からよく一緒に遊んでいた、お姉ちゃんのような存在。
彼女はたしか記者をしていた。
「あー……やられた……」
情報を売買するのが仕事。
ならどんな情報を求められても、持てる限りのものを出すのが道理だろう。
公私を混合させるような人ではないから、司くんのファンだからといってペラペラ喋るわけじゃないだろう。
いやまぁ、少しは揺らぐだろうけど……
それにもし情報をもらえなくても、力で脅せばいくらでも聞き出せる。
──まさか、
「!彼女は無事なんですか!?」
「南のことかい?」
「南ちゃんは今、何処にいるんですか?無事なんですか!?」
もし彼女が軟禁状態にあって、拷問に近い形で情報を聞き出されていたら拙い。
ここに来た時に見たが男女率はほぼ男性が多い。
しかも殆どがムキムキマッソーメン達だ。ならば、ここは武力で統治していると考えてもいいだろう。
武力政治。
もし彼の本性が残忍な性格であれば、気に入らない者は速攻武力でねじ伏せるに違いない。
彼が私の質問に答えるまでの時間が酷く長く感じる。たったコンマ数秒の間のはずなのに、何分にも感じられた。
「彼女は、」
うん、無事だよ。
ゆったりとした口調で告げられた事実は、私の中にキリリと張り詰めていた糸をすっと解した。
「あぁ、……良かった……」
安堵のあまり声が漏れ、涙が溢れる。
本当に、良かった。
顔見知りのいないこの世界で、希望となる家族がいなければ、生きていこうなんて気力が湧かなくなってしまう。
死ななきゃ安いとは言うが、怪我をしているのを知っている上で普通の生活を送るのは、到底できない。
「君は……」
「?」
「君は……うん、隠していたはずの情報を売られたんだ。なのに何故怒らない?」
たしかに情報は大事だし、勝手に誰かの手に渡された事に怒っていない訳では無い。
でも非常時の今は人手を集めて生活を安定させなければならない。
そのために必要な能力を持っている人の情報なんて、値千金だ。
情報を守ろうと意固地になって誰かを失うよりかは、よっぽどいい。
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_____(プロフ) - 米さん» 米さん初めまして!コメントありがとうございます。文章が硬くなってしまうのが悩みでしたので、そのように楽しんでいただけたのなら幸いです!相変わらずの亀更新ですが、米さん含め、皆様に楽しんでいただけますよう頑張ります。 (2020年4月13日 21時) (レス) id: 0c0dd0f299 (このIDを非表示/違反報告)
米 - 文章が読んでいて楽しくて、いつも楽しみにしています。これからも陰ながら応援しております。 (2020年4月13日 18時) (レス) id: 2a29b7989a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:____(かせん) | 作成日時:2020年3月26日 12時