【ヒプマイ】君と。【短編集】

神宮寺寂雷 / 美味しいが嬉しい ページ8

私の妹は、所謂拒食症。


ほとんど食べ物を口にしない。


「A、今日はどれぐらい食べれそうだい？」


「………い、らない…」


「でも、食事を摂らないと栄養失調で倒れてしまうよ？」


「お腹、空いてないの…」


何時も食事時にするこの会話。


悲しそうに目を伏せて首をふる彼女は、とても弱々しい。


「(せめて、少しだけでも…)」


そう思って、今日は小さい頃Aの好きだった、ドリアを作る。


「A、おいで？」


「え…？」


何時もなら向かい合って食べるのを、今日は隣に座るよう、手招きをして椅子を引く。


「Aが好きだった…今も好きなのかな？ドリア。一口だけでも、食べてみない？」


そう言いながら、スプーンで一口分掬い、口元に近づけてみる。


「やだ……」


ギュッと唇を結んで、口を開こうとしない。


「そっか…」


少し寂しく思いながらも、それを口に含む。


「…っ、…」


一人で食事を進めていれば、裾を引かれる感覚に箸を止める。


「どうしたんだい？」


優しくそう問いかけてみると、少しだけ泣きそうな表情で、私を見つめて、


「ちょ、っとなら…食べ、る………」


「！」


彼女は勇気を出したのだろうか。


微かに震える手を握りしめてあげると、ピクリと肩を揺らして、棄てられた仔犬の様に見上げる。


「はい、あーん……」


「や、自分、で…」


先程と同じく一口だけ掬って口元に近付ければ、顔を少し赤らめて、首を振るけれど、


「量少なくするでしょう？」

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