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時を遡ること一時間ほど前。
あぁ、もう! と美影は頭をガシガシ掻いて叫んで、ボサボサになった黒髪を束ねている紐をほどいて結び直した。
「何かあったんですか?」
「……瀬川君が警官三人と……いや、警官の格好をした三人と姿を消したらしい」
「え、」
今、美影は何と言った。聞き取れなかったわけではない。ただ、何故瀬川が姿を消したのかという疑問が廣瀬の頭を真っ白にしたのだ。身体の芯から指先まで、まるで氷水を被ったように冷たくなった。何故だ、解くことのできない疑問ばかりが廣瀬を埋め尽くしていく。足元の地面がガラガラと音をたてて崩れていくように感じた。ただただ、不安になっていくばかり。
「私達は情報がないと動けない。だから不動君達にはその三人の特徴を細かく訊いてくるように言ってある。大丈夫だよ」
美影は廣瀬の不安を感じ取ったのか、遠回しに励ます。こういうところは直球じゃないんだ、と廣瀬は場違いにもそう思った。
「ちとせはぶじだよ。だいじょうぶだよ。きっと」
「きっとって何ですか!」
「だってぶじとはかぎらないでしょ?」
「無事だって信じましょうよ!」
聞き返すんじゃなかった、と廣瀬は自己嫌悪に苛まれた。けれども、話をしているうちに廣瀬の中にあった不安が顔を潜めた。そうだ、瀬川さんは姿を消しただけだ。それに、彼には鯉さんだってついている。鯉さんのもとになる水は此処等にはたくさんあるし、銃弾からも、ナイフの刃からも護ってくれる。大丈夫だ。瀬川さんは無事だ。
確証は何もないのに、大丈夫だ、無事だと思えた。何故なら瀬川は不幸に好かれているが、そのほとんどがしっかりと無事に解決しているからだ。それを思い出すと、一難去ってまた一難ということはことわざがしっくり来るな、と思ってしまった。その浮かんだ考えをブンブンと頭を振って払いのけて、深呼吸をした。
「大丈夫」
「お、いつもの廣瀬君に戻ったねぇ〜」
「それを言うなら美影さんだって」
「私はいつもと同じさ」
・
・
同時刻。
「あれー、交渉班の皆さんじゃないですかー。どうしたんですかー?」
「瀬川が姿を消したらしい。見ていないか?」
「み、見てない……です。……すみません……」
「いや、いいんだ」
「事件の証拠見つけたんですけど鑑識さんっていますかねー?」
鑑識ならそこに、と不動らに話をしている哀れな警官が目線を送る。
「すまねぇな」
「いえ。ご協力感謝します」
長船は交渉班にいびられている警官に謝った。
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神羅(プロフ) - 蛍火さん» すみません、もう締め切っておりまして……。それに、今は殆ど機能しておりませんので……。ボチボチ更新しなければと思うのですが、私も一応受験生でして……。すみません。 (2018年7月9日 23時) (レス) id: 57d9444f68 (このIDを非表示/違反報告)
蛍火 - お話読ませていただきました。もしも席がまだ空いているのなら、社員として、入らせていただけると嬉しい所存でございます。この小説を読もうとしたきっかけは、ラハルちゃんの紹介です。お考えの方よろしくお願い申し上げます。 (2018年7月3日 14時) (レス) id: 62a90d8188 (このIDを非表示/違反報告)
神羅(プロフ) - 浅葱さん» 頑張ります! ちょこちょこ更新しますね (2018年3月4日 21時) (レス) id: a22dd21ad8 (このIDを非表示/違反報告)
浅葱 - すごい、面白いです!更新待ってます!! (2018年3月3日 13時) (レス) id: 2921f40b7a (このIDを非表示/違反報告)
神羅(プロフ) - 花園イリアさん» はい! おかげさまで突入できました! 不定期更新ですが、これからもよろしくお願いいたします(^-^ゞ (2017年5月5日 14時) (レス) id: a22dd21ad8 (このIDを非表示/違反報告)
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