ページ ページ25
.
山本は、きっと、同じ通り魔に襲われたんだ。俺の、せいだ。俺が、気にせいだなんて思ったから。俺が、なにも行動しなかったから。
「あ、川上さーん、これ今度の企画なんですけ、ど……って、どうしました?顔色悪いですよ」
「あ、あぁ、ごめん。ちょっと寝不足」
「そうなんですか?しっかり休んでくださいよー」
山本に顔を覗き込まれて、咄嗟にそんな嘘を吐く。通り魔に襲われたというのに、包帯以外はほぼいつも通りな山本に少しだけ心が軽くなって、彼の心配に「そうする」とだけ返した。
確実に、近づいてきてる。この前まで高校の同級生や大学の同級生だったのに、ついに山本にまで危害が加わってしまった。対象が、俺に、着実に近づいてきている。
早くなんとかしなければ。そうは言っても、なにも手なんて無い。犯人がどこの誰かも分からなければ、どこに現れるのかも検討がついていない。このまま、なにも出来ずに終わってしまうのだろうか。
「……すみません、俺ちょっと出てきます」
「おー気を付けろよー」
気の抜けた伊沢さんの声を背に、オフィスを出る。友人達の話を聞くに、全員一人で行動している時に襲われたと言っていた。
ここ最近、俺は電車やバスと言った公共機関を利用することが多かった。だからもしかすると、人通りの少ない所を一人で歩けば、犯人を炙り出せるんじゃないか。そう思った。
撃退方法も、拘束の仕方も、なにも対策せずにただ突発的に思い立ったことだった。もし本当に現れたときどうするかも、なにも考えていなかったように思う。
ただ、もうこれ以上周りの人間を傷つけないでくれと伝えたかった。もしかしたらたまたま俺の周りの人物だったのかもしれない。だとしても、もうやめてほしかった。
「……だいぶ、遠く来たな」
無言で歩き進めていると、既にそこは見慣れない場所だった。元々あまり色んな所を練り歩いたりしない派の俺は、自分の住んでいる地域、よく利用する範囲から少しでも外れれば、もうよく分からない。
中心部とは違い、人が疎らのそこを、辺りを見渡しながら歩く。車の音や人が行き交う音以外なにも聞こえないのが逆に不安を煽って、ぐっと奥歯を食い縛った。
→
611人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白菜(プロフ) - 河良紅好さん» ご報告ありがとうございます!助かりました!早急に修正させて頂きます! (2020年6月16日 22時) (レス) id: a14ef8aee6 (このIDを非表示/違反報告)
河良紅好(プロフ) - はじめまして、陰ながら白菜さんの作品を楽しく拝見させて頂いてます。大変失礼ですが、事件No.5の2ページ目の「マーキング」が「マーケティング」になっていました事をご報告させて頂きます。 (2020年6月16日 21時) (レス) id: a18b40da37 (このIDを非表示/違反報告)
るーと - この作品を読むのが最近の密かな楽しみになっています。ご無理をなさらない程度に更新頑張ってください!これからも楽しみにしてます! (2020年6月12日 21時) (レス) id: 300feac1d8 (このIDを非表示/違反報告)
餅兎(プロフ) - 遅ればせながら新作ありがとうございます…! Twitterで設定をお見かけして以来ずっと心待ちにしておりまして、余りのことに学校滅ばねえかなとまで考えておりました。早速背筋の凍るような展開にゾクゾクしております、更新頑張って下さい。 (2020年6月11日 20時) (レス) id: 10f5dc34bc (このIDを非表示/違反報告)
神木(プロフ) - 占ツクを開くたびに更新されてないかなーって確認するくらい更新とても楽しみに待っています!更新頑張ってください! (2020年6月11日 16時) (レス) id: ded004bcdf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ