【文スト】私の日記[リクエスト制短編集]

10分前　江戸川乱歩 ページ12

日が傾き始め、１日のうちで一番気温が上がる時間帯。建物の外では、春一番の突風が吹いていた。
レンガ造りの建物内のある一室で、減る様子の無い積み重なった書類を見て、もううんざりだと固くなった体を伸ばした。
集中が途切れて、聞こえてくるのはお菓子をポリポリと食べる音だけ。それを聞いて初めて今ここには2人しかいないのだということを知った。

この人は全く書類仕事をしないが国木田さんには怒られる事がない。
それはこの探偵社の一番の年長者ということもあるが、なにより実力があるからだ。

私も他の探偵社の皆と同じようにこの人を尊敬しているが、あまりに書類仕事をしないのでたまに妬ましく思う。


「今日は仕事の依頼、無いんですか？」


少しでも現実逃避をしたくてそんな事を尋ねた。
あまり大きな声は出さなかった筈なのに、静かなせいかやけに大きく響いたように感じられる


「……面白そうなものが無かっただけ」


素っ気なく返された返事にそうですかと頷いた。
あまり人が揃うことがないこの部屋で、乱歩さんと2人きりになるというのは特段珍しい事ではなかった。

何故だかここで仕事をする時間がよく被るのだ。それに内心首をかしげながら、ただの偶然かと心の中で答えを出す。

そしてあともうひと踏ん張りだと高く積み上げられた書類を見るのだった。

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