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155.ゆびきりげんまん ページ5

 彼女が自身の頸に当てた日輪刀を

 俺は斬りまいと必死に止めた。

 力が…強い。


「杏寿郎…私は鬼なの…

 今はまだ人間の自我があるけれど…

 いつか人を殺してしまう…

 大切なあなたを…手にかけてしまうかもしれない…」


 どちらも譲らずに拮抗する力で

 腕が痺れてしまいそうだ。


「そんなことがあったら…私は自分を許せない…」


 A、俺だって頭では分かっている。

 分かっているんだ。

 でも、君を失うことが…堪らなく怖くて…

 心はどうしようもなく乱れていて

 自分でもどうしたら良いのか分からない。


 だって、君は俺の恋人なのだから。

 俺の最愛の人なのだから。

 俺の妻になる、ただ一人の愛した人なのだから。




「杏寿郎…」


 不意に優しい声がして、俺は彼女を見つめる。

 Aは涙を流しながら、儚い笑顔で優しく俺に告げた。


「…愛してるよ。」


 君の言動に油断してしまった。

 一瞬だけ力が緩んだのを彼女は見過ごさなかった。



 Aは自身の頸に日輪刀を振りかざした。


「ううっ…」

「駄目…だ…」

 半分くらいまで斬ったところで彼女は手を止めた。

 東の空から太陽が昇り、陽光が眩しく俺たちを照らす。

「杏寿郎…もう手を離していいよ。

 ふふふ、時間切れだね。」

 少しずつ燃えながら空へと散っていくAは

 俺の大好きな心を癒すような笑顔だった。


 彼女が右手の小指を俺に差し出すと、

 俺はいつものように自身の小指を絡めた。


「ねえ、杏寿郎。私たちは戦いの前になると、

 いつもこうしてゆびきりげんまんをしたね。」


「そうだな。」


「これが最後のゆびきりげんまん。」


 絡めた小指の先から、少しずつ彼女が消えていく。


「後はよろしくお願いします。

 私のできなかった分まで、鬼から人を守ってね。


 それから…」


 声を詰まらせたAは、寂しそうな表情をして、

 それでも精一杯の笑顔で俺に言ったんだ。




「恋人にしてくれて、ありがとう。

 たくさん思い出をくれて、ありがとう。

 愛してくれて…ありがとう。




 あなたはあなたらしく、

 心を燃やして、まっすぐに生きて。幸せに…」



 最後まで言い終えずにAは消えていく。

 俺は消えゆく彼女を思い切り抱きしめた。


 抱きしめた…のに、そこに彼女はいなくて。


 着ていた羽織と隊服だけが、虚しく俺の腕の中にあった。



 

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設定タグ:煉獄杏寿郎 , 鬼滅の刃 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
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狐姫(プロフ) - 小鈴さん» 感想ありがとうございます!最後までお読みいただき光栄です。物語は読んでもらってこそ生きるものだと私は思うので、この作品を見つけてくださり、そして読んでくださったこと、本当にありがとうございます! (2022年11月15日 18時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
小鈴(プロフ) - 素敵なお話をありがとうございました。途中からずっと、涙なしでは見られませんでした。この作品の主人公と煉獄さんに出会えて本当に良かったです! (2022年11月14日 22時) (レス) @page50 id: 97399e389e (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - misakimiさん» 最後までお付き合いいただき、感謝申し上げます。主人公に感情移入し、物語に入ってもらってこそ、この小説の醍醐味と思い作っていたので、大変光栄です!あたたかいコメントにいつも励まされておりました。ありがとうございました! (2022年7月16日 7時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
misakimi(プロフ) - 読了が遅くなりました。お疲れ様でした。長らく愉しませて頂きました。現し世でなくても、ハッピーエンドとは!こういう纏め方もあるのかと感心です。彼女の気持ちに入り込んでいたため、逢いたいけど早いよと涙しました。 (2022年7月15日 16時) (レス) @page50 id: cb1d4026ae (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - 美桜さん» ありがとうございます!起承転結の「転」は恐らく読者様の予想を超えるものになってしまったかもしれません。しかし、美桜さんのように嬉しいお言葉をいただけると、作者として本当に幸せです♡最後まで読んでくださり、ありがとうございました! (2022年7月10日 15時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume  
作成日時:2022年6月12日 13時

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