淡紅舞う 4【煉獄杏寿郎】

169.想いは今も ページ19

　杏寿郎へ

　
　この手紙は読まれることのないまま、

　幸せな将来を歩めていることを願うばかりですが、

　あなたがこれを読むということは

　きっとそうはいかなかったのでしょう。


　しかし、どうか嘆かないでください。

　私はいつだってあなたと共におります。

　
　思えば決して平坦な人生ではありませんでした。

　婚約者を鬼に襲われ、消えてしまいたいと願った日も、

　人に裏切られ、信じることが怖くなった日もありました。


　それでも私が前を向いて生きてこられたのは

　杏寿郎がいたから。

　あなたが私にたくさんの愛をくれた。

　本当にありがとう。そしてあなたを置いていく私を

　どうか許してください。



　最後にこの世に生まれ、出会うことのできた

　私の"好き"をここに記しておこうと思います。


　朝焼けの空、甘味、桜、桔梗、花火、本、


　杏寿郎。


　杏寿郎の声が好き。宝石のような瞳が好き。

　安心する匂いが好き。笑顔が好き。癖のある髪も好き。

　ご飯を美味しそうに頬張っている顔も好き。

　優しくて、あたたかい手が好き。


　杏寿郎が好き。大好き。


　いつまでもあなたの幸せを願っています。

　病気にはくれぐれも気をつけて元気に過ごしてください。

　
　A







　君の言う通り、

　できれば一生読むことのないままでいたかった。


　
　俺も好きだ。君が大好きだ。


　言葉を残してくれてありがとう。

　
　
　胸ポケットにしまっていた婚約指輪を取り出して

　静かに眺めていると、ふとあることを思い出した。


「そうだ…指輪…」








　もうすぐ夏がやってくる。

　君と約束した夏が、

　君だけがいない夏が、やってくる。



　あの時誓った想いは今も変わらずに。

170.鬼を連れた隊士→←168.一通の手紙

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す