淡紅舞う 3【煉獄杏寿郎】

125.言葉の重み ページ25

ぼうっと窓の外を眺めていると

　一羽の鴉が手紙を持って部屋に入ってきた。


「和咲、ご苦労様。」


「目ガ覚メテヨカッタ…心配シタ。」


　和咲は私のお腹の辺りに身を置いて目を瞑る。

　その重さが心地よくて、私は和咲の額を撫でた。


「心配かけてごめんね。もう大丈夫だから。

　この手紙は誰から？」


「花子カラ」


　花子さんから？


　私は手にした手紙をそっと開いて目を通した。

　丸みを帯びた可愛らしい文字で綴られた文章は

　私への謝罪の言葉ばかりで…



　どうしたら彼女の心が救われるのか

　手紙の文字を指でなぞりながら考えていた。



　もし、自分が花子さんの立場だったら…？


　好きな人に好きな人がいたと知ったら

　深い闇に突き落とされたような気持ちだろう。


　思う年月が長ければ長いほど、

　簡単に諦められるわけもない。


　でも、恋人である私から何か言われるのも

　きっといい気持ちはしない。



「A？」



　思い悩んでいると杏寿郎が水筒を手に病室へと戻ってきた。

　心配そうに見つめる瞳が私の心を掴んで

　余計に苦しくなる。



「みんなが幸せ…は難しいのかな。」


　ポツリと呟くと、

　彼は私の前にしゃがみ込み、頭を撫でて微笑んだ。
　


「幸せは気がついたらそばにあるものではないか？

　人はつい他人と比較をしてしまい

　そばにある幸せが見えなくなってしまう。」



「そばにある幸せ…」



　杏寿郎は私の手を握ると屈託のない笑顔で

　まっすぐに告げる。



「時として不幸に感じることもある。

　だが、それが永遠に続くわけではないだろう？

　その時は見えないだけなんだ。



　小さな幸せは自分の足元にいくつも転がっていて

　それに気づけるかどうか。
　


　幸せとは自分で見つけ出すものだと俺は思う。」




　そうか。


　幸せはひとつとは限らなくて、

　その時は辛いことでも

　生きていればそれが永遠というわけではない。




　同い年の杏寿郎は、

　年齢よりも考えが大人で、

　時々、年上の人の話を聞いているように感じる。



　それはきっと彼の経験から積み重ねられた

　言葉の重みなのだと私は思った。

　

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