#129『暴く者と隠す者』 ページ43
「モンゴメリさん、今の僕の名は萩原朔ですよ。スタインベックさんから聞いてないのですか?」
これ以上彼女に僕のことを喋らせる訳にはいかない。モンゴメリは朔が鼠だという事を知っている可能性が高い。
後に口止めしなきゃなあ、朔はコーヒーを口に含んだ。
「彼には一度会ったけどなにも教えられてないわ」
……嫌がらせだろうか。まあ、僕は伝えろとは言ってなかったが
スタインベックの無邪気な笑顔が浮かぶ。
「ところで朔君、サーシャというのは?」
太宰の猛禽類のような鋭い眼光を朔に向けてきた。
「だから、僕の愛称ですよ」
朔は苦笑いを浮かべた。
「『サーシャ』のような独特な愛称を持つ国に、私は心当たりがあるだけどねえ」
太宰の鳶色の鋭い目が朔の紫色の瞳と交錯する。
「仮に僕がその国出身者だとして、」
朔は一度、黙る。探偵社全員の視線が朔に集まる。
朔はニッと口角をあげ、目をかっ開いた。
「だからなんです?」
太宰は黙りこくる。証拠がないから、彼女を追い詰める事は出来ないのだ。
「ねえ、太宰さん」
朔は言葉を止めない。
「僕がロシア出身だから、なんなんです?何か貴方にとって不具合が生じますか?」
「……君はロシア人なんだね」
「ええ、そうですよ。純かどうかは知りませんが」
太宰は唇を噛む。此処では屈する事しかできない。
その化け鼠の皮はどう頑張ろうが剥ぐ事は出来ないのだ。
ロシア人だから、というだけで魔人と朔を重ねるのは可笑しい。ロシア人はこの世に沢山いる。一種の差別にもなりかねない。
でも太宰の勘は言っていた。
この子は『黒』だと。白が全く混じっていない純粋な『黒』だと。
だけど証拠が無い。
幾度なくぶつかって来た問題に戻ってしまう。
太宰はため息を吐く事しか出来なかった。
疑ぐりをかけられている当の本人である朔も、かなり内心では焦っていた。
だから太宰に煽りをかけてしまった。
初歩的なミスを犯してしまった、朔は後になって後悔する。
自分が動揺しているのを隠すために相手を煽るのは常套手段。あまりにも一般的な心理。
“正体がバレたら彼の人に捨てられる”
“居場所が無くなる”
躍起になる心を落ち着かせる為に息を吐いた。
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飛沫(プロフ) - hurukawaさん» いえいえ、すみません。是非最後まで見てください。 (2021年1月15日 18時) (レス) id: 06a707eb14 (このIDを非表示/違反報告)
hurukawa - 見れました!ありがとうございます! (2021年1月15日 18時) (レス) id: be99c0bfdf (このIDを非表示/違反報告)
飛沫(プロフ) - hurukawaさん» ご指摘ありがとうございます。こちらの不手際で非公開になっておりましたので、それを解除しました。見れるようになれたと思います。すみませんでした。 (2021年1月15日 18時) (レス) id: 06a707eb14 (このIDを非表示/違反報告)
hurukawa - #96がないです (2021年1月15日 17時) (レス) id: be99c0bfdf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:飛沫 | 作成日時:2020年3月16日 15時