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「いや、なんでもない」
手触りの良い、柔らかな髪から手を離す。
今の俺は、ちゃんと笑えているだろうか。
「ふーん? 変なそらる」
質問の意図が分からない、と言う顔でAは笑う。
こいつは来週、自分が1×歳の誕生日を迎えることを知らない。
今から数年前までの記憶を失くしてしまったAは、心が小学生の頃まで巻き戻ってしまった。
部屋に引きこもっていた日々も、他人を怖がっていた原因も、全て忘れてしまった。
「今日は暖かいね」
Aはうわごとのように呟く。
きっと、今が何月なのかすら分かっていないのだろう。
その視線は、半開きになっている窓に注がれている。
鈍色の窓枠から、身投げするAの幻覚が見えた。
「少し肌寒いだろ」
椅子から立ち上がり、窓を閉めて鍵を掛ける。
そのまま色褪せたカーテンも閉じて、今見えた幻を根底から否定した。
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さっぽん - 次のお話を楽しみにしています!! (2021年5月19日 21時) (レス) id: 6727f20ffd (このIDを非表示/違反報告)
凛音(プロフ) - すごく楽しませてもらっています!病み系のものが少ないのでできれば長期化してほしいです! (2020年8月14日 3時) (レス) id: 19593b8502 (このIDを非表示/違反報告)
恋花レンカ - すごくドキドキします!続きが楽しみです! (2020年5月4日 11時) (レス) id: 434c29f1e9 (このIDを非表示/違反報告)
ときあめ(プロフ) - めちゃくちゃ鳥肌たちました……どこか薄暗いような、気が滅入るようなお話が大好きで、この作品を読んでこれだ!感がすごかったです笑続きを楽しみにしてます。 (2020年1月26日 14時) (レス) id: 5d5f606a06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:マミカ | 作成日時:2019年12月5日 14時