五百一話 ページ32
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『随分手酷くやられたみたいだな』
坂田金時「ああ、案外手こずっちまってな」
窓の中のどっぷりと日が沈んだ歌舞伎町から少しだけ目線を動かして帰宅した坂田金時を視界に入れる。
そいつはボロボロになった身体を引きずって社長椅子の前のテーブルに左腕を置いた。
血は一滴も流れておらず、断面からは無数のケーブルのようなものが覗く。
そしてその左腕にはおまけとでも言わんばかりに緑色の着物の袖がついていた。
『どういうつもり?』
どこからどう見てもスナックお登勢の看板娘のものとしか思えない“それ”に疑念の言葉を投げ掛ける。
しかし金時はうざったい金髪を靡かせてお世辞にも真面目なんて言えない勝ち誇った声で告げた。
坂田金時「どういうつもりも何もねェよ。
今回の件の罪を坂田銀時と早瀬詩織に擦り付けるんだ。
早瀬推しのお前には申し訳ねェがこれで…」
『違う、そうじゃない』
ベラベラとよく喋る坂田金時の口を閉ざすように口を開く。
坂田金時が万事屋を乗っ取ろうとしているということは最初の説明で理解している。
坂田銀時を貶めることや早瀬詩織を傷つけてしまうことは金時と手を組む以上避けられないことも。
けれども一つ、きいていないことがあった。
『たまさんの腕を斬ったのはどういう了見なのかって言ってるんだよ』
仮面の上に張り付けた笑みを浮かべる坂田金時に対し、不機嫌を煮詰めて全面に押し出したような表情で窓の外に向いていた体を坂田金時へ向ける。
坂田金時「お優しいねェ、サンナンさんは。いや……アンタ“も”か。
人間と違ってからくりの身体なんざちょちょいのちょいで直るっつーのに熱心なことで」
どこで知ったのかは検討もつかないが真選組でのあだ名をわざとらしく強調した。
余裕、とでも言うような顔で机の上に置かれていたたまさんの腕をひらひらと左右に振る。
癪に触るほどの調子の乗り具合の様子のそいつを一瞥してから社長椅子に腰を掛けて、軋む背もたれに体重を掛けて天井を見上げた。
『一つ言っておく』
ここまで来たら今さら正義の味方面なんてできやしない。
だから忠告にもならない負け惜しみに似た何かを口から吐き出した。
『後悔するよ、いずれ』
戯言とでも言ったところか。
深くは語らずに短くそう呟いて、ある人がたまさんを抱きしめ怒りに染まっている姿を想像しながら社長椅子に身体を沈めた。
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作者名:たこわさび | 作成日時:2023年10月9日 22時