四百九十四話 ページ25
絡まれている方には悪いがこの状況を利用させてもらおう。
ナンパから女性を助けてなんて少女漫画で使われているベタな展開にはなるが見せ場がないよりは百倍マシ。同じことを思ったのか私に視線を送る旦那に強くうなずいた。
詩織「あのー、すいみません。
何かトラブルでもありましたか?」
斬り合いなどの物騒なイメージがついているかもしれない真選組だが腐っても警察。
出来るだけ穏和な態度を心がけて仲裁に入るかのように揉めていた両者に声をかける。
すると女性に絡んでいた男の人が私の声に反応し、彼と視線が絡んだ。
「姉ちゃん、何モンだ?」
「国家公務員です」
Aさんのことがあるのであえて真選組の名前は出さず男性に告げる。
彼は国家公務員、という単語に一瞬驚いた様子を見せるが品定めするように私の体を爪先から頭のてっぺんまで視線でなぞった。
それから鼻で笑い「何か問題でも?」と言わんばかりの態度で喋り出す。
「なに、こっちの事情だ。嬢ちゃんには関係ねェ。
それとも何か、嬢ちゃんが…代わりになってくれるってのか?」
誰から見ても舐めているとわかるような態度で男性がニタリと笑う。
このチビなら行ける、何てことを相手が考えているのが嫌でも伝わってくる。
確かに私はAさんより一回りぐらい背も低いし、体格が良いとも言えない。
けれども引き下がらずそんな男性に負けじと口を開いた。
私は旦那と一緒に坂田金時を倒すと誓ったんだ!
詩織「お言葉ですが、ナンパをするならもっとスマートにした方がいいと思います!」
「すまっ…?」
詩織「連行のような形じゃ誰もついて行きたいなんて思いませんよ」
私から出てきた唐突なナンパのアドバイスに彼が一瞬戸惑っている様子が伺える。
しかし少しの間の後親に反抗する子供のように「見本を見せてみろ」と私に告げた。
本物のナンパなんて実践したことがない上、生で見たのは数回程度。
言葉でも態度でもうまく返せずに動きを止める。
打開策はないかと頭を回転させているとAさんが男性の右肩に自らの肘をのせた。
『オニーサン、今からザギンでシースーでもしけこまない?』
「バブルんときのプロデューサーの誘い方じゃねェか!
そして今から寿司は重いだろ‼」
やけに馴れ馴れしい口調に異様な距離感。
正に平成のチャラ男を観賞しているかのようなこの感覚。
私は忘れていた、この中で一番女慣れているのはAさんだということを。
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作者名:たこわさび | 作成日時:2023年10月9日 22時