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「よっ、ぼんち揚食べる?」
迅が医務室を訪れたのは、太刀川さんが去った後だった。太刀川さんはあれから、取り敢えず考えてみてくれと一言言って出て言った。
「お前、私がこうなる事見えてなかったんか?」
「…見えてたよ」
私はため息をついた。隠岐が刺されたときもそうだった。あの時は雨に打たれて風邪をこじらせ肺炎を起こしかけて入院した私に、見えてたんだとぼそっと呟いた。あの時、生駒が止めてくれなかったら、迅を殴っていた。
「こうすることによって最善の未来に近づくんだ」
ビー玉のように光る水色の目がキラキラしていて綺麗で、なんでも許してしまいそうになる。
「お前は、私に殴られたいんか?」
「そーかもしれない」
顔は蛍光灯で影ができていて、よくわからなかった。
「迅は神様じゃないんやから、そんなことまで責任持たんでええねん」
迅がぱっと顔を上げた。その顔はびっくりしたというような顔をしていて、それでいてひどく傷ついていた。迅は神様じゃない。未来が見えてもたった19年しか生きていない。
「…隠岐のときは、すまんかった」
殴ろうとしてごめん。気が動転して酷いこといっぱい言った。ほんまはわかっててんよ、迅に責任なんかないことなんて。でも、隠岐が死んでしまったらって考えると血の気が引いて、どうしようもなかったんや。
そんないっぱいの言葉を一言にまとめて言った。
「…太刀川さんの隊に入るべきだよ」
迅は何を考えているのかいまいちよく分からない無表情な顔でそう言った。迅がそんな顔をするのはとても珍しいことだった。
「…ちょっと考えさせて」
迅が医務室から出て行ったあと、私は屋上に向かった。私は修を担ぐ前にあまり考えていなかったが、トリガーオフをしていたらしく、真冬の空気が肌に突き刺さって痛かった。星が綺麗に見えていた。
私はタバコに火をつけてゆっくりと吸った。
「ここにあったんか」
後ろを振り返ると生駒がいた。
「倒れたって聞いたけど、いけるか?」
私は首を縦に振った。
「一本いる?」
私が聞くと、いらんと言われた。
「なんか、ひさしぶりやなぁ」
生駒が伸びをしながら言った。隠岐が刺された後、私は隊を抜けた。私の副作用があるなら避けることが出来たのにそれをしなかった。隠岐に甘えてしまった。その事に当時の私は責任を感じていた。それ以来、生駒隊の連中とは意図して避けていた。
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つちのこ(プロフ) - ありがとうございます!忘れてしまってました… (2020年5月23日 23時) (レス) id: 2241c11c95 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:つちのこ | 作成日時:2020年5月23日 22時